金融危機に沈んだもの

公開日: : 最終更新日:2014/05/03 ヘッジファンド, 金融危機 | 

「1998年ロシア通貨危機で起きたことと、それまでの流れ」を5回シリーズでお送りします。今回は第5回(最終回)です。第4回は金融危機を生き延びた者よりご覧になれます。

世界の金融市場がQEバブルで涌く中、確実にバブルの終わりはせまってきています。1998年に起きたロシア通貨危機によってマーケットはどう動いたのか、1990年代に大きく拡大したヘッジファンドはどうなったのか。過去の大きな危機から、これからのマーケットがどうなるかを考える際の一助になればと思います。また、4・5は当時の、実際のトレーダーに焦点を当てたコラムです。お楽しみに。

 

目次

  1. ロシア危機と「嵐の後」
  2. 私募金融市場とヘッジファンドが拡大する米国の資本市場の歴史
    • ヘッジファンドとは
    • 次々と行われた法・税制面での抜本的な改革
    • ヘッジファンド拡大期に多様化した運用手法
  3. 金融危機に乗じるハゲタカ・ファンドの役割
    • ロシア危機で儲けたハゲタカ・ヘッジファンド
    • ハゲタカファンドは再生屋
  4. 金融危機を生き延びた者
  5. 金融危機に沈んだもの

 

ランディー・サルツバーグはブロード・ストリートからもう一本狭い道を隔てた「140ブロードウェイ」の黒いビルにある大手欧州系銀行ミッドライド・バンクのジャンク債のヘッド・トレーダーだった、1998年ロシア危機までは。それまでの8年間、彼のトレーディングも成績は順調だった。

 

ランディーは1989年にミッドライド・バンクに就職した。湾岸戦争のあった1990-91年に、世の中はひどい不況期にあったが、彼のキャリアには追い風になった。不況克服のためFRBは利下げに踏み切り、長短期の金利格差は拡大した。債券トレーダーは、短期で借りて長期債券に投資して利ざやを稼ぐ裁定取引を行い、多くの利益を稼ぎ出した。不況下、債券市場は活況を呈した。この時期に、ミッドライド・バンクの債券トレーディング・デスクにトレーダーのポジションを得られたことは、ランディーにとってラッキーだった。株価が下がり続ける中、債券部門は銀行のために多くの収益を稼ぎ出した。

 

その後、1994年のメキシコ危機やFRBの利上げで、新興市場やモーゲージ市場のデスクが手痛い目にあうのを横目で見ながら、ランディーはジャンク債トレーディングで稼ぎ続け、そのチームのヘッドにのぼりつめた。1995年以降も、彼のチームは景気拡大の波に乗って稼ぎ続けた。銀行の経営陣は、成功報酬としてランディーに毎年多額のボーナスを与え、さらにボーナスを積み立てた彼自身の資金も会社の資金といっしょに運用する特権を与えた。1998年には、ランディーは自己資金1400万ドルを投じるにあたり、ミッドライドから3600万ドルを借り入れ合計5000万ドルを投資資金として運用していた。

 

1998年、夏の終わりを家族とともに過ごすためにバーモント州に避暑に来ていたランディーは、同僚からの電話で銀行に引き戻された。ロシア危機に端を発した「質への逃避」で、ジャンク債は売り浴びせられていた。見る見るうちに、米国債とジャンク債のスプレッドは拡大の一途を辿る。ランディーはパニックに陥り、手持ちのジャンク債を投げ打った。9月が終わるころ、3600万ドルの借入金を除くランディーの自己資金1400万ドルを失っていた。

 

10月9日(金)、コロンバスデイの休日につながる長い週末の前に、彼は解雇を言い渡された。無理もない。ランディーが8年間にトレーディングで会社のために稼いだ利益は2億500万ドルだったが、9月の損失は6億ドルにものぼったのだ。

 

プロのトレーダーといえども、危機の売り浴びせの市場環境では、群集心理に巻き込まれ、「いっせいに」同じ方向に走り出す。さらに、多くの債券トレーダーはレバレッジ(借入金やデリバティブをテコにした投資で、投資額の何倍もの取引ができる)を行っていた。当然、レバレッジの分、損失は膨らんだはずだ。金融危機は地震のようにあるとき突然発生し、運用者は危機発生から1~2日という短い間に適切な対処をしなければ、致命的な損失に見舞われる。

 

かつて、チリ沖で大きな地震が観測された。その地震発生から数時間後に日本の漁村に大きな津波が押し寄せた。津波は漁村に近づくにつれいっそう大きなエネルギーを溜め込み、陸地に衝突する瞬間に最大規模の衝撃を与えた。漁民の家々や船が波にさらわれ、漁村は壊滅的な打撃を受けた。このとき、津波を察知し、ためらわずにすぐに山の上に走って逃げた人々だけが助かった。金融危機も津波のような衝撃を市場にもたらす。レバレッジの分、貯まったエネルギーが市場参加者を襲い、危機を察知し逃れた者は容赦しても、逃げ遅れた者はとことん容赦しないのだ。

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