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国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

米ドルへ世界の資金が流入

8月末から通貨市場に変化が起こっている。日本では円安・株高の動き。円は103円台から110円近くまで急激に下落した。そして、ユーロ圏と英米の「デカップリング」。米英では利上げに向かい、ユーロはさらなる緩和策で景気の弱さが懸念され、特に5月以降、対ユーロで米ドル高である。新興市場の通貨も軒並み対米ドルで下落している。特にウクライナ危機で、ロシア・ルーブルは対ドルで年初から20%も下落している。

 

その原因は、キャリートレードの大きな巻き戻しである。

一般にキャリートレードでは低金利通貨で借り入れ、高金利通貨で運用(高利回りの通貨の株や債券に投資)し、収益を上げる。これまでのキャリートレードでは、米ドルで借り入れ、新興国に投資していた。

しかし、米国の金利が上昇し始めることから、新興国通貨で投資した資産を売り、米ドルに戻す動きが一斉に起こっている。

さらに、中国の経済成長が鈍化することから鉄鉱石、原油などのエネルギー資源の世界的需要が冷え込むと見込まれ、コモディティ価格が下落している。

そのため、円で借り入れし、資源高と連動した豪ドルに投資する円キャリートレード(円キャリ)の巻き戻しも起こっている。円キャリでは、豪ドル下落と同様に、高利回りの新興国の株・債券に投資したものの、米ドルの巻き返しによる値崩れで損失が膨らむだろう。

 

このように、グローバルな投資マネーは米ドルに集中的に流入し、他通貨に対して一極的なドル高となっている。そのウラには、原油価格、金価格の下落も見て取れ、ちょうどリーマンショック前の2ヶ月間と類似していると通貨アナリストが指摘している。

 

折しも、香港では政治的自由を求める数万人の学生や市民が金融街セントラルを占拠している。「一つの中国、二つの政治体制」の原則のもとで、共産党独裁体制から民主主義を守ってきた香港に大きな変化が起ころうとしている。

中東、ロシア、中国—— 原油と資源価格を押し上げて来た諸国に対抗する米ドルの力で香港をアジア金融市場のハブとして残すことはできるだろうか。

このまま半政府デモが長引けば中国の選択肢は、1989年天安門事件のような軍事的に弾圧するか、香港の自治を認めるかのいずれかである。過激な軍事介入は避けたとしても、中長期的に香港は中国に統合され民主主義を失い、香港ドルも消え失せるかもしれない。

 

しかし、米ドル高のウラには、シェール革命を含むエネルギーの技術革新があり、IT革命を上回る勢いで人々のくらしやライフスタイル、政府のあり方までをも変えようとしている。石油の時代は終わったが、米ドルの時代はまだまだ続く。

 

ただし、国際金融市場にはボラティリティが高まり、米ドル高がいつ反転するかもしれないリスクもある。マリア・ラミレス氏のように、米国経済は見かけよりも弱く、利上げは2015年末まで据え置きという予想もある。米国経済の弱みが露呈した場合、市場が混乱し、ミニクラッシュが起こる可能性もある。

 

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