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国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

中国がインフレを世界にばらまくとき

「風が吹けば桶屋が儲かる」ということわざがある。中国の鉱工業生産指数が底を打てば、油価・コモディティ価格も底を打ち、中国は世界にインフレを輸出するようになるだろう。中国経済は、高度成長から低成長へと移行すると同時に、個人消費がGDPを牽引する内需牽引型への転換を目指している。中国の一人当たりのGDPは目下7千ドル。これが1万ドルを超えるようになり、爆買いが日常化する消費社会が到来するのだろうか?そして、英米はゼロ金利解除に向けて動き出している。

 

中国10本の矢!

以前このレポートで「中国製造2025」を取り上げた。中国経済は二桁の高度成長から5%台の低成長への移行過程にある。今後、成長をいかに持続して行くかが国家の課題となっている。国務院の行政トップからの指導で、30年計画をまとめ、10大重点産業を発展させるべくロードマップを明らかにし、粛々と実行している。産業構造も「世界の工場」へと導いた製造業から「個人消費」を中心にすえたサービス産業へと移行するときである。中国は、アベノミクス「3本の矢」よりも強力な「10本の矢」を手に、本気で構造改革に取り組もうとしている。

 

中国から放たれた「第三の矢」!

 

中国はインフレを世界に輸出する

そうはいっても、中国が、GDPの7割を個人消費が占める米国型の経済構造にシフトし、その成果を実感できるまでには数年はかかるだろう。短期的にみれば、今、中国の鉱工業生産が本当に底をついたかどうかの見極めが、ポイントである。

2001年に中国がWTOに加盟し、「世界の工場」として長期にわたる高度成長を続けるとの期待が原油・コモディティ価格の上昇トレンドを作ってきた。一方で、中国の安い製品が世界を席巻し、グローバルな価格破壊が起こり、インフレではなくデフレ圧力が高まった。

しかし、中国経済が低成長といえども今後安定的な成長を持続できると再認識されれば、原油・コモディティ関連価格は、長期需要を見込んで再び安定的に上昇していくだろう。コモディティ・トレーディングの巨人、グレンコア社の在庫もすぐに一掃されるだろう。そのときには価格破壊は起こらず、中国の消費意欲が膨らみ、インフレを世界にまき散らすのではないだろうか。そして、このときに、先進国でも原材料コストの上昇など、インフレ懸念が現実化すると筆者は予想している。

 

AIIBは中国を新たなパラダイムに導くか?

中国はアジアインフラ投資銀行(AIIB)で主導権を取り、広大な国土のインフラ整備を進めるとともに、全国津々浦々の内需を掘り起こし、13億8千万人の国民に安定的な成長の果実を提供しなければならない。AIIBはそのための資金調達機関として大きな役割を担うはずだ。

中国はAIIBのAAA格付けを前提に資本調達コストを下げ、大幅なインフラ投資を実施する。このときに当然ながら、AIIB加盟国は投資案件へのアクセスと投資リターンを享受することになる。

 

金融戦争の戦場はサイバー上にあり

AIIBと同時に、中国は人民元の国際化を狙う。ただし、金融の根幹を成す信用創造と決済システムにおいて中国が主導権を取れるかどうかの見極めが、ポイントである。

21世紀の金融システムはサイバー上に構築され、グローバルに展開する。30年前にはレーガン大統領が本気でスターウォーズ計画をたてたが、今は「サイバーウォーズ」が日常となっている。つい先日、米国の2千万人もの公務員の情報がハッキングされ、深刻な問題となった。米国のエネルギー、航空機産業など主要な企業への被害も相次ぎ、FBIはハッキングの8割は中国によるものと報じている。このように、米中関係は、その外交のウラ側で、FRBの利上げ(インフレ対策)とサイバーウォーズの熱い戦いが繰り広げられている。

 

中国鉱工業生産指数が底を打ち、FRBがゼロ金利を解除し、リーマンショック後引き続いた「中央銀行相場」も「FRBプット」も徐々に出口に向かうだろう。

 

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