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国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

トランプ新秩序。大きな4つの政策

先週、米国大統領選挙の投票結果を見直す動議がウィスコンシン州で出され、ペンシルベニア州、ミシガン州でも再集計の要請が出た。この三州は接戦州で、僅差でトランプ勝利となったのが、ロシアによる集計プロセスへのハッキングが取りざたされている。大統領選挙の正当性すら危ぶまれたら一体どうなることかと思いきや、ニュースは感謝祭後のブラックフライデーと小売り売上高に集中し、株式相場にはマイナス影響は見られない。

 トランプ新政権は「アメリカ第一主義」を掲げ、米国が内向きになっていくことに世界が懸念を抱いているが、実際どのような政策が掲げられているのだろうか。まず、米国内では成長戦略が優先課題である。共和党が多数となる議会と共に、新政権は現行の財政支出の制限を緩め、公共工事やインフラ投資を実施し、オバマ政権下の平均2.2%の成長率を倍増させるという。一方、副作用として財政支出の拡大で財政赤字の増加が予想される。ほぼ完全雇用に近い状況での財政支出拡大は、インフレを引き起こすだろう。インフレや金利上昇は2018年以降に景気に悪影響を与えそうだ。FRBの人事もまた18年までにタカ派が主流を占めると予想されている。

 次に、税制改正である。法人税引き下げなど国内事業には恩恵を与えるだろうが、その一方で、多国籍企業が世界で稼ぐ利益を米国に引き戻すような措置がとられるだろう。例えば、大手IT企業はタックスヘイブンのスキームを利用し節税を行ない、収益と株価を上げてきたが、今後は節税の抜け穴を塞ぐような措置が取られるだろう。

 第三に、規制緩和である。トランプ新政権ではシェール増産を目指し、資源開発を進めると見られる。今週はOPECで減産合意が成立したが、米国が増産すれば、原油価格の上昇は考えにくい。資源開発への規制緩和のマイナス面は環境問題への悪影響である。また、金融業界においても規制緩和への期待がウォール街で高まっている。

 第四に、保護主義への移行である。これまでの自由貿易、グローバリズム、市場開放といった政策を方向転換し、新政権は保護主義に向かう。反グローバリズムの流れは英国のEU離脱を押し進めた要因でもあった。来年、ドイツ、フランスでも大統領選挙があり、ナショナリズムや極右の台頭が懸念されている。トランプ新政権が保護主義に走れば、欧州をはじめ、開放経済で成長したBRICs経済にもマイナスとなり、民衆の怒りを駆り立て政治不安を煽ることになるだろう。

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