政治・経済・金融 国際近代史まとめで超長期的視点を養う

公開日: : 大井リポート | 

「木を見て森を見ず」というように、株式や為替など日々の相場動向に加え、国際金融や通貨体制全体が大きな節目に来ている事実を直視することが重要である。その意味で、9−10日に開かれた米中経済戦略対話に注目したい。

「超長期」の観点からみると、国際金融市場は戦争と平和、国際関係の歴史に深く関わっている。平たく言うと、平和時の貿易や投資は、戦時には武器と暴力のやり取りに代わる。領土拡張や利権獲得のために武力行使を始めれば、最新兵器や弾薬、銃後の食料や燃料、ロジスティックスも含め、戦争に勝つために巨額の資金調達が必要となる。戦後、敗戦国は賠償金を数十年かけて支払わねばならず、また、戦勝国にとっても失われた人命を考慮すれば戦争の機会費用は当事国のGDPを合算した数十年分にもなるだろう。大規模で長期にわたる戦争の後には、当然、金融のリバランスと通貨体制の仕切り直しが行われる。

そうした意味から敗戦国日本の奇跡の復興を振り返ると、パックスアメリカーナの傘下、日本は幸運にも70年近く平和を享受し、豊かな社会になった。しかし、日本の繁栄を支えてきた外的環境は激変し、今、国際関係は大きな変動の最中にある。その中核に米中経済戦略対話がある。

戦後の米中関係を振り返ると、通貨体制の危機と重なっている。まず、米ソ冷戦の代理戦争となった15年にもわたるベトナム戦争で、米国の経済は疲弊した。ベトナムからの名誉ある撤退と多額の財政赤字を解決するために、1971年、米国は二つの「ニクソン・ショック」を引き起こした。ひとつはニクソン大統領とキッシンジャー特別補佐官による北京訪問を、何の前触れもなく電撃的に発表したこと。もうひとつは「ドルショック」とも称される戦後のブレトンウッズ体制の終焉だ。ベトナム戦争で疲弊した米国は、ドルを金に交換出来ないほど金保有量が減ったため、金とドルとの兌換を停止し、ドルの信認を守るためにドルを切り下げ、世界は固定相場制から変動相場制へと移行した。これも想定外の事で、世界中が衝撃を受けた。

それから30年後の2001年に世界同時多発テロが起こった。米国は「テロとの戦い」を大義とし、「戦争経済」との批判を浴びながらも、2003年にイラク侵攻を開始した。また、2001年は、中国が15年かけた交渉の末WTOに加盟した記念すべき年でもあった。それから10年かけて、中国は「世界の工場」となり、海外への輸出により高度経済成長へと邁進した。中国は巨額の貿易黒字を米国債購入へ回し、米国の戦争経済の資金面を支えたと言えよう。

ブッシュ政権2期目から始まった米中経済対話で、バブル経済の後始末に追われる中国との交渉で、米国は成果を上げることが難しくなっている。中国が米国の要求に応じて人民元を切り下げるどころか、サイバーテロ攻撃など安全保障上の問題が深刻化している。中国もまた「戦争経済」を抱える。人民解放軍は国家の失業対策の一環であり、共産党は軍の暴走を抑えられない実情があると思われる。

現実的には、米中双方が交戦する、あるいは米国が財政破たんするとなれば、世界が不安定化し、ドル体制が崩壊する。そうした危機を世界の誰もが望んでいない。米中が相互の体制維持と優位性確保のために行う交渉・取引が経済戦略対話だ。米国が勢力均衡(バランス・オブパワー)の交渉を進めるなかで、両国に挟まれた日本が標的となるのは時間の問題と思われる。

安倍政権が押し進める「集団的自衛権」の先にある「日米同盟」は、果たして米国の国益と一致しているのだろうか。日高義樹氏は著書『アメリカの大変化を知らない日本人』の中で、米中通貨同盟の実態を指摘し、さらに、「日本に依存してほしくない、経済繁栄を続けたいのならば自己負担・自己責任でやってほしい」といった米国の不満が高まっている事実を示唆している。

米国はシェール革命を経て次なるエネルギー革命で世界中から優れた技術を集めて国内の製造業を復活しようとしている。日本のエンジニアリング、自動車など競争力のある企業は米国に主要な生産拠点を移し、米国から世界に輸出する体制に切り替わりつつある。米国は常にイノベーションの中心に位置し、世界中の優れたヒト、モノ、カネを引きつけ集積し、世界で稼いだお金を自国に還流できるシステムを構築することで、世界で優位を保ち続けようとするだろう。

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