グローバルストリームニュース
国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

「中国封じ込め」を狙う「トランプ関税」、グローバルサウスはどうなる?

 米中はちょうど1ヶ月前の5月10-11日にジュネーブで協議を行い、関税率を90日間引き下げることで合意をしたばかりでした。その後トランプ政権は、中国人留学生ビザを無効にし、半導体設計ソフトウェア販売を制限し、米国製ジェットエンジンの重要部品と技術輸出を禁止しましたし、中国はレアアースなど重要鉱物資源の一部を抑制し、米国を牽制しました。5月30日にトランプ氏は自身のSNSで、中国がこの合意に違反したと非難しました。マーケットには再び緊張が走りましたが、6月5日に両首脳が電話会議を行い、米中の歩み寄りがやや見えてきました。今週(6/9の週)、通商協議がどのように進むかが注目されます。

 21世紀になってBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国、南ア)が脚光を浴び、BRICsが拡大して「グローバルサウス」がこれからの世界をリードする、そうした期待が高まりました。「グローバルサウス」が独自の通商貿易圏を形成し、そこにBRICs通貨が流通し、BRICs通貨が米ドルの覇権にとって変わっていくといったビジョンも示されました。

 しかし、4月に中国を標的とする「トランプ関税」が実効になり、5月にトランプ氏が中東とインドを歴訪し、またウクライナ停戦に向けてプーチン氏と直接話し合うといった動きにつれて、トランプ政権が中国を他のBRICsから分断していく様相も見えてきました。

 そして、5月にトランプ氏がサウジ、カタール、UAEを歴訪したさいには、「米国は中東諸国に対して内政干渉するのではなく、これからはビジネスで協力関係を築いていく」という内容のスピーチを行い、米国が「世界の警察官からビジネスマンに」変身したことを示しました。トランプ政権は中東歴訪の3日間で、2兆ドルもの投資を引き出しました。

 この取引(ディール)にはおそらく、原油増産をめぐる米国と中東産油国による価格調整の交渉も含まれていたと想像できます。トランプ政権は国内の原油増産と石油の輸出を見据えて、産油国ロシアも含め原油の安定的価格体制を形成していくと思われます。サウジやロシアにとって自国の財政悪化を招く原油価格の大幅下落は避けなくてはならない事態です。

 米国はOPECとロシアと連携して安定した原油供給と価格を維持することで、「オイルダラー」復権を確保します。ドルを原油決済通貨として確定し、ユーロや人民元などドル以外の通貨での決算を封じることがトランプ政権の目的なのです。

 トランプ氏は中東歴訪に続きインドを訪問しました。インドは伝統的に「非同盟主義」の独自の中立的な外交を貫いています。インドはロシアから原油や兵器を輸入していますが、米国にとっては「開かれたインド太平洋」で米第七艦隊のシーレーンをサポーツする安全保障上の重要なパートナーです。

 このところ、インドは中国を牽制する動きを強めてきました。中国はパキスタンとの経済連携(CPEC:中パ経済回廊)、ミャンマーとの経済連携(CMEC:中国ミャンマー経済回廊)に加え、バングラデッシュとの関係も深めてきました。さらに中国は、2017年からスリランカの重要なハンバントタ港の運営権を99年間差し押さえ(債務の罠)、インド洋へ覇権を拡大してきました。インドにとって、西のパキスタン、東のミャンマーとバングラデッシュ、南のスリランカとの連携を強める中国の動きは、安全保障上の脅威です。そのためインドは中国を牽制し、米国との関係強化に動かざるを得ないのです。

 以上のような「中国封じ込め」を狙った「トランプ関税」が一段落し、米中が歩み寄るとなった場合、ロシアやインド、中東諸国は再び中国との連携を深め、BRICsとグローバルサウスで欧米に立ち向かう勢力になるでしょうか?

 私は前のような状況とは少し違ってくるだろうと予想しています。インドは「第三世界」をリードする「非同盟主義」を掲げ、中国の地位を脅かすでしょう。中国は不動産バブル崩壊でGDPの45%を占めてきた投資による成長エンジンが壊れ、人口減少と地方政府の財政赤字増大、デフレ不況の蔓延によって「世界の工場」の地位を徐々に失いつつあります。不況と大量失業でこれまでの政府の腐敗構造に対する市民の不満が膨らみ、社会不安が深刻になると見られます。

 また、グローバルサウスが結束して一塊になって欧米に立ち向かうかというと、世界はより多極化していくと、私は見ていますドイツを中核に台頭した。欧州経済が弱まっていく中、G7に代替する経済力を持ったインドのような新興国家が台頭してくるなど、世界の勢力図や秩序は大きく変わりつつあります。

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