グローバルストリームニュース
国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

ヘッジファンドが引き起こす2014年の円高リスク

 

2013年はアベノミクス効果で日本の株式市場は50%以上も上昇しました。
この1年で日本市場で一番おいしい思いをしたのはヘッジファンドではないでしょうか。

ここでいうヘッジファンド」とは、グローバルマクロ戦略の一貫として、
世界の通貨、株、債券、先物に投資する海外の大手運用会社です。

典型的なのはジョージ・ソロスのヘッジファンドで、
レバレッジを効かせて空売りを仕掛けるハイリスク・ハイリターン型の投資スタイルです。
彼らは円や日本株の方向性を見極めて、先物から仕掛けてきます。
日本株取引の三分の二は外人投資家と言われていますが、
その最前線を行くヘッジファンドが日本市場という土俵に
ドカドカと土足で踏み込んで来ているのです。

日本にも日本株ロング・ショート・ファンドを日本人が運用するヘッジファンドがあります。
こうした日本関連のヘッジファンドの運用総額は2006年のピーク時で5兆円ほどで、
現在は2兆円に満たないほどといわれています。
全世界のヘッジファンド投資残高が270兆円を超えることから、
日本のシェアは1%にも満たないのです。

その意味でも、大手ヘッジファンドを先兵とした外人投資家の動きが重要です。

海外ヘッジファンドの行動はシンプルで、
リスク・オン、リスク・オフ(Risk-on, Risk-off=RORO)と称されます。
リスク・オンのときはリスクを取る、オフになるとリスクを取らない行動にでます。
電気スイッチのようにOn/Offと切り替えます。

具体的には、量的緩和でリスク志向が強まると、
安全資産からよりリスクの高い資産へと投資対象を切り替えます。
例えば、国債からジャンク債へ、先進国の株式から新興国の株式へと
ハイリスク・ハイリターンへと資金を移します。
グローバルマネーはこうした素早いRORO行動で、
世界の市場を駆け回り、収益のチャンスを狙います。

海外ヘッジファンドの動きは、2012年10月に東京で世界銀行・IMF総会が開催され、
各国の中央銀行総裁、財相が東京に結集したところから始まりました。
このとき、当時の前原経済財政担当相が物価目標達成を掲げて
日銀に強力な金融緩和を求めました。

集まった世界の金融関係者は「日本がデフレ脱却に動く」と見たのです。
その直後に、野田首相が消費税増税でクビを差し出し、12月には安倍政権が成立しました。
この一連の流れに乗って、外人投資家は2012年10月から2013年7月まで
連続10ヶ月間も日本株を買い越しました。

ただし、5月半ばから外人投資家は利益確定へ動きました。
バーナンキ発言(2013年5月22日にテーパリング開始を示唆)直前に売抜けた感があります。
そして、「テーパリング開始」の声を聞いた5月と6月は買越額が急減しまし、
8月は売り越しました。
9-10月の買い越しは小さかったのですが、11月は大幅な買い越しとなりました。
これは、11月にはイエレン次期FRB議長がテーパリング開始時期を
先延ばしするという発言を受けて、
大量のリスクマネーが日本市場に押し寄せましたためです。
ROROパターンの彼らの行動は、シカゴ先物市場で円ショート+日本株ロングです。

2013年全般で見ると、外人投資家の買い越しに対して、
国内投資家(機関投資家と個人投資家)が売り越しています。
外人が先に割安で買い、国内投資家が高値になって参入してくるところで
「もう十分利食った」と利益確定の売りを仕掛けてくるパターンが見られます。

2014年明けての問題は、外人投資家がこれまでの円ショートポジションをいつ
巻き返す」かです
大量の買い戻しが一気に起これば円高に振れる可能性があります。
急激な円高がいつ、どのような形でやってくるか

トリガーになる要因は、過去の例でいうと、
欧州金融危機や東北大震災に匹敵する災害、
朝鮮半島や中東など国際政治の不安定化などです。

今年後半に、世界が落ち着いてくれば急激な変動のリスクは
薄れて行くかもしれません。
しかし、なんといっても 米国経済の足腰が本当に大丈夫なのか、
日本の財政問題が解決に向けて動き出すのかなど不透明感があります。

今年はテーパリング(量的緩和縮小)開始で、米国の金利が上昇、
世界の投資マネーは米国に向かうと予想されます。
その場合には理屈の上では円安ドル高なのですが、
直近「巻き返し」から円高のリスクもあります。

日本株については、昨年の円安・日本株高という勢いはそろそろなくなり、
円安が続けば燃料や原材、食料価格の高騰が成長を妨げる要因となります。
海外からの見方は、日本政府が規制緩和・構造改革を行い、
成長体質に自己変革できるかどうかがキーとなります。

 

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