グローバルストリームニュース
国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

コロナとMMT  MMTは人を奴隷にする

 世界規模でコロナ禍が続き、ロックダウンで需要が瞬間蒸発して半年が経過。「Go To トラベル」など「ウィズコロナ」の社会実験が続く。しかし、景気回復は一進一退で、時間がかかりそうだし、年末にかけて雇い止めなど失業件数も増えていくだろう。

 先進国のGDPの7割近くを占める個人消費が伸び悩む中、各国政府では生活資金を直接国民に支給する救済策を進めている。米国民は4月に財務省から一人当たり1200ドルの小切手を受け取った。ドイツでは「ベーシックインカム」導入が検討されている。

 政府が家計に直接資金を配る、中央銀行が株や債券を直接買い付けるといった異常事態が「新常態」となる中、MMT(Modern Monetary Theory: 現代貨幣理論)が主流派経済学に割り込んで、自分たちが「新常態」の正当な理論を先取りしていると言いたげである。本当にそうなのか?

 MMTの理論は、簡単に言えば、主流派経済学の「財政規律」を目指さない、「スペンディング・ファースト」で、完全雇用や物価安定を目指す。財政支出が増えると国債発行でまかなうことになるのだが、中央銀行が財政ファイナンスのオペレーションをするので、デフォルトは発生しないと主張する。

 MMTは、米民主党の経済政策(グリーンニューディール、国民皆保険、教育無償化など)の理論的な基盤を提供している。加えて、政府が「最後の雇い手」となり、社会保障、再教育等の支援を行い、公益分野への就業を斡旋するという福祉政策までも提唱している。

 MMT理論の提唱者として有名なのは、ステファニー・ケルトンNY州立大教授で、民主党サンダース大統領候補の経済顧問を務めた。一見するともっともらしいMMTには、サンダース支持の若者や、「ウォール街占拠」に賛同し格差社会を批判する人々が、サポートしているようだ。ソ連のような国家社会主義経済が崩壊して30年も経った後で、MMTは社会主義/共産主義体制を正当化する新手の理論なのだろうか?

 私は個人的には、MMTを何かウサン臭いと感じている。政府(為政者)が支出をどんどん増やして利権を握りしめて太っていく、その裏では国民が水呑百姓のように永遠に税負担に苦しみやせ細っていく・・・こんな悲惨な図式が見えてくるからだ。

 政府がまずカネをバラまいて、最低賃金や社会保障を提供する、そのコストは税金で回収する。ここまでは「大きな政府(福祉国家)」がやってきたことだ。加えてこれからは、電子政府が国民一人一人のサイフの中身までチェックし、「お前は今月カネを使いすぎたぞ」などと監視を強めるようになるだろう。

 そもそも金融は、実体的な経済活動や取引があってこそ存在する、いわば実体のバックボーン、影絵のような存在だと私は認識してきた。ところが、リーマンショック以降、マネーの量が実体経済の10倍以上に膨れ上がり、金融市場は経済とは無関係に動いている。その意味では、古典的な経済理論は、現実とかけ離れてしまったと言えるかもしれない。

 例えばの話。大木(国民経済の実体)があって、そこにツル(金融)が巻きついている。ツルは大木に寄生している。ところが、ある時からツルが大木から必要以上に養分を吸い取り、大木を締め上げて実体を乗っ取ってしまった。大木の中身を構成する国民は働けど、寄生者(金融を支配する為政者)に吸い取られていく。国民は政府に監視されて主体的な選択も自由も尊厳も失っていく。最後には税金を払うだけの奴隷になってしまう。こうして国民主権が終焉し、憲法で保障された人権も失われていく。

 MMT理論の下ではいったいどのような社会が見えてくるのか?今はその実験中(テスト期間中)なのかもしれない。

コメントは締め切りました。