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国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

巨大化ゆえに顕在化したヘッジファンドの経営管理リスク 2000年春

 

 

2000年春に起きた巨大ヘッジファンド崩壊の真相の第3回です。第2回は目次2.ハイテク株相場の流れを読み間違えよりご覧になれます。

優秀なヘッジファンドといえども、一歩間違うと大きな痛手をうけます。投資を考える上で、ヘッジファンドの過去の事例から学ぶことが沢山あります。2000年春に起きた巨大ヘッジファンドの崩壊事例を元に、全4回に分けて、それまで優秀なパフォーマンスを上げていたヘッジファンドが崩壊したのか、ヘッジファンドが抱えるリスクについて説明していきます。

 

目次

  1. 市場拡大が裏目に
  2. ハイテク株相場の流れを読み間違え
  3. 巨大化ゆえに顕在化した経営管理リスク
  4. 巨大ヘッジファンド崩壊の原因から学ぶヘッジファンド投資の注意点

 

巨大化ゆえに顕在化した経営管理リスク

robertsonロバートソンとソロスというスターの権威が失墜しても、5000億㌦ともいわれるヘッジファンド業界に大きな影響は出ていない。92年当時と比べれば、その市場規模は10倍近くになっていると推定される。

一方、1990年秋の米国のMAR誌(ヘッジファンドのデータベースを持つ専門誌)による1305のヘッジファンドを対象とした調査では、平均的なファンドの運用額は9300万㌦と前回の1億3500万㌦よりも小規模になっていると報告されている。先述記載の表にあるような10億㌦を超すヘッジファンドは業界の一握りにすぎない。市場規模が拡大する一方で小規模のファンドが増えているわけだ。

ここに実は、タイガーとソロス・マネジメントという二大ファンド運用会社の崩壊の真相が隠されている。

ヘッジファンドはミューチュアルファンド(米国の一般投資家向けの投資信託)と異なり私募金融商品であるため、投資家はリスク許容度が大きい富裕層に限られる。

起業家精神に満ちた運用者が斬新な投資アイデアを考え、実践した。運用実績さえよければ投資家の資金は集まり、運用者は多額の成功報酬を得てきた。

名声が高まるにつれジャガー・ファンド(タイガー)やクオンタム・ファンドのような有名ファンドには、ハイリスク・ハイリターンを求める投資家のホットマネーが集まり、資産額が急増する。

運用資産額が巨大になりすぎると、ヘッジファンドが本来の強みである機動力のある投資行動がとりにくくなってしまう。自らが動くことで市場への影響が大きくなりすぎては、市場の価格形成のひずみに着目して利益をあげることがむずかしくなる。これも行き詰まりの要因だ。

しかし。行き詰まりの真相がもっと根源的なところにある。それは規模が大きくなるにつれ、経営管理ができなくなったことだ。これが崩壊の真相である。

規模が小さいうちは斬新な投資手法で高いリターンを上げることに集中し、自らの経営管理に注力せずにすんだが、規模が大きくなると運用者は投資戦略とが別に経営管理の体裁を整える必要に迫られる

大規模なファンドの運用には、トレーダーやアナリストを雇うほか、バックオフィスなどオペレーションコストがかかる。こうした固定費は運用手数料で賄われる。一方、運用者の給与(変動費)は運用収益の分け前の成功報酬で支払われる。

運用実績が好調で、資金が増えているうちはよいが、ヘッジファンドはいったん損失を出すと投資家の資金の逃げ足は速い。資金は流出してもいったん広げた企業規模はすぐに縮小できない。固定費を賄える運用手数料を得られる、いわば損益分岐点となる運用額を割り込むと、固定費の支払いにも窮し、経営上危機に追い込まれることになる。

ある業界インサイダーは、タイガーの廃業を経営的観点から「年間8000万㌦の固定費がかかる。資産額が50億㌦以上ないとビジネスとして成り立たない体質になったため」と説明する。

タイガーの場合、廃業直前の資産の内訳をみるち、3分の1がロバートソン個人の資産だった、残りの3分の2の資産運用のために高い固定費を払い続けることを考えれば、ファンドを解散したほうが得だという計算を働かせたといわれている。

 

次回

4.巨大ヘッジファンド崩壊の原因から学ぶヘッジファンド投資の注意点

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