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国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

新陳代謝を高める米国市場

国際金融市場はFRBがいつゼロ金利解除に動くかを注目している。イエレンFRB議長はそのタイミングを6月以降と公表し、市場は、早くて6月、あるいは9月にも利上げがあるとみている。利上げの根拠となるのが失業率など雇用の回復である。

FT紙によれば、米国の雇用情は2012−14年で特に建設業が4%の伸び、さらに、ホームケア・保育など社会福祉関連、レジャー産業、士業といわれるビジネス関連専門職も3%以上の伸びを示している。反対に政府で働く公務員の雇用は減っており、民間経済として雇用は堅調にみえる。また、賃金上昇に関しては、特に21−25歳の若い世代の賃金が4%の伸びを示し、地域別ではサンフランシスコ、ボストン、シアトルの順に伸び率が高い。ただし、原油下落から、シェール革命といったオイルブームで沸いたエネルギーセクターでは大量解雇の兆しもあり、米国時間の6日朝に発表される雇用統計が注目される。

 

記事 “US labour market in charts”(Sam Fleming 記者、FT2015年3月3日付)

http://www.ft.com/intl/cms/s/0/1aa5481a-c12c-11e4-876d-00144feab7de.html?ftcamp=published_links%2Frss%2Fglobal-economy%2Ffeed%2F%2Fproduct&siteedition=intl#axzz3TIssi66s

 

米国でもまた株高が続いている。特にナスダック総合指数が3月2日に5008.10をつけ、2000年3月10日の最高値5048.62に近づいた。このころはまさにITバブルのピークで、インターネットでモノやサービスを提供する企業が新株発行でナスダック市場に押し寄せ、シリコンバレーはドットコム・ブームに沸いていた。

その当時からの15年を振り返ると、2001年9月11日の世界同時多発テロを経て、ナスダック総合指数は2002年10月にはピーク時から78%も下落し、1108をつけた。多くの個人投資家はバブルの頂点に上り詰める途中で買い入れ、突き落とされて投げ売り、大きな損失を抱えたと言われている。当然、多くの起業家やベンチャーキャピタルもバブル崩壊とともに退場となった。その後もリーマンショック、金融危機を経て淘汰が進んだ。

そして何が変わったのか?かつてのベンチャー企業だったインテル、シスコ・システムズ、オラクル、マイクロソフト、アップルは存続し、大企業に成長した。AOLやペッツ・ドットコムはなくなったが、アマゾンは健在である。生き残ったIT大企業の株価の伸びはそれほどでもないが、グーグル、フェイスブック、ツイッターなど次々と新進気鋭の企業が勢いを増し、その後を追いかける多くの起業家が駆け上がって行く。

そして、この事実をサンフランシスコやシアトルでの若者の雇用と賃金の伸びと重ね合わせると、新陳代謝を高めていく米国のアントレプレナー精神・起業エネルギーの強さを実感する。いまや世界一の大富豪となったビル・ゲイツ氏はその巨万の富を慈善事業に寄付し、ナスダック市場で彼が得た富は回り回って世界の人々のために使われている。

 

ウォールストリート紙 3月3日付記事「ナスダック5000突破 知っておくべき5つのこと」 http://jp.wsj.com/articles/SB11785226218567734557404580494793420640412?mg=id-wsj

 

さて、米国の次なる問題は、この株高がいつまで続くかである。2000年ナスダック市場急落とITバブル崩壊はすぐさま世界の市場に波及し、IT業界を中心に景気悪化の波が世界を覆った。米国の株式市場が崩れれば、世界同時株安と不況へのサイクルが始まる可能性もある。その引き金となるのは何か?世界中のテロリストのハッカー集団や、ISIS、ウクライナ問題で揺れるプーチン独裁政治、イランの核問題、さらなる原油下落など無数のリスクがちりばめられ、いつ何が起こっても不思議ではない。

FT記事によれば、ウォレン・バフェット氏も既に株高に懸念し、「強気相場のピークを見極めるのは常に難しい」と述べている。さらに同記事では、米国の実質成長率は2014年の4%から3%にスローダウンしており、株高は実体経済を反映していないと指摘し、ファンダメンタルズを無視した株価上昇は要注意と指摘している。

 

FT記事 “Reasons to worry about US equities” (Gavny Davies記者 2015年3月1日付)

http://blogs.ft.com/gavyndavies/2015/03/01/reasons-to-worry-about-us-equities/

 

この指摘はまた、日本市場にも当てはまるだろう。

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