グローバルストリームニュース
国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

トリレンマとギリシャ危機

トリレンマ

16日(火)に早稲田大学産業経営研究所主催で「21世紀の中央銀行」と題されたフォーラムが開かれた。白川前日銀総裁の基調講演、欧州中央銀行前金融市場局長、国際決済銀行アジア太平洋代表の報告が続いた。そして、元日銀・国際決済銀行、現早稲田大学客員教授の吉國眞一氏の司会でパネルディスカッションが行われた。

 

http://www.waseda.jp/sanken/forum/academic/

 

本来、中央銀行の役割は、物価の安定と金融システムの安定にあるが、リーマンショック以降、先進国の中央銀行は大規模な金融緩和を実施し、インフレ・ターゲットと自国の通貨安を目指してきた。たしかに、こうした金融危機への対応のおかげで、1929年のような大恐慌を避けて通ることができたのだが、折しもギリシャ危機の懸念が高まり、AIIBで中国の存在感が増すなか、これからの中央銀行の役割はいかにあるべきか。まさにタイムリーなテーマが論じられた。

一般に、国際金融市場では、(1) 自由な資本移動、(2) 為替相場の安定、(3) 独立した金融政策という三つの政策を同時に実現出来ない「トリレンマ」がある。経済学者ロバート・マンデルにちなんでマンデル・モデルと言われている。(1)と(2)を満たす場合、変動相場制となり、関係国は為替安定のために協調政策を必要とする。また、(2)と(3)を同時に満たす場合、(1)は制限され、自国の為替安定のために管理フロート制となる。前者が日・米など先進国、後者が中国の政策である。今後、AIIBを中国が主導するならば、中国は金利の自由化、為替相場の自由化に踏み込み、外国との自由な資本移動を可能にする必要がある。人民元国際化にむけて思い切った政策転換が必要である。

また、ハーバード大学のロドリック教授は、(1) グローバル化(国際的な経済統合)、(2) 国家主義(国家の自立)、(3) 民主主義(個人の自由)は、同時に成り立たないという「トリレンマ」を論じている。21世紀はグローバル化の時代なので、日米のように(1)と(3)が同時に成立するか、中国のように(1)と(2)が同時に成立するかしかない。ただし、リーマンショック後は中央銀行の力が金融緩和を続け、その影響力は金融市場で肥大化している。また、先進国では景気対策で財政支出を増やし、国家資本主義の様相を呈していること、そして、グローバル化よりも地域経済ブロック化の流れが強いことから、各国が協調してマンデル・モデルを修正し、新たな枠組みに仕切り直す動きが顕在化している。TPPもAIIBもそうした脈絡でとらえるべきだろう。

 

ギリシャ危機

EU圏内ではスペイン、ポルトガル、キプロスがかつての経済危機から脱却していく中、ギリシャだけが孤児になりつつある。ギリシャ問題は5年前頃から顕在化してきたが、いよいよこの6月末から8月にかけて、これまで延長されてきた緊急策の支払い期限が次々と迫っている。(ブルームバーグ記事 “Timeline; what comes next for Greece”)これだけの支払いと資金調達のスケジュールにギリシャが耐えられるかどうかは相当難しい。

 

http://www.bloomberg.com/news/articles/2015-06-15/greece-crisis-timeline-what-comes-next-for-athens

おそらく、ギリシャはテクニカルにデフォルト宣言し、EU、ECB、IMFのトロイカ体制はギリシャにさらなる緊急融資を行うと同時に、EU離脱を許さず、体制の管理下にギリシャを置くだろう。この場合、「トリレンマ」は吹っ飛び、ギリシャは敗戦国として戦後賠償金を国民の税金で支払うことになり、その支払いが終わるまで、ギリシャ中央銀行と政府はトロイカ体制に占領され、国民のプライドは踏みにじられる。国内の政治不安定化は必須である。これぞ21世紀の「ギリシャ悲劇」ではないか。

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