他人事ではないウクライナ情勢: 歴史がヤルタ会談まで戻るとき、日本の安全保障はどうなるか?
欧米NATO軍とロシアがウクライナをめぐり情勢が緊迫しています。何か遠い国の出来事のように報じられていますが、実は廻りまわって日本の安全保障にも大きく関わる重要な事由です。
【地図】から確認しますと、ロシアから欧州へ天然ガスを輸出する主要なパイプラインが通っています。ウクライナ経由(赤線)の他にも、バルト海底経由でドイツに向かうノルドストリーム(青線)、ベラルーシとポーランド経由でドイツに向かうヤマルヨーロッパ(黄線)、そしてジョージア(アゼルバイジャン、グルジア)経由してトルコを通り南欧州に向かうパイプライン(緑線)があります。(地図の点線は建設中のパイプラインを示しています。)
ロシアとNATOに挟まれたこの地域は地政学上、常に列強の緩衝地帯(バッファー)であり、歴史上、少数民族の分離独立運動や紛争が続いてきました。ロシアはソビエト連邦時代の周辺国が西側NATOに組み入れられ、ロシア領土内に敵対勢力の武器や兵器が入り込むことを防ごうとしています。しかも、ガスパイプラインが敵側の手に落ちればエネルギー資源と大きな利権を失います。
今世紀に入り、2008年8月には南オセチアをめぐるグルジアとロシアの紛争、そして、2014年2月にはクリミア危機が起こりました。ウクライナは2014-15年にロシアとの戦争で大変な不況と金融危機に見舞われました。
【グラフ】はウクライナの実質GDP成長率の推移(赤線)を示しています。(黒線は欧州・中央アジアの実質GDP)クリミア危機で、ウクライナでは周辺国と比べてかなりのマイナス成長になりました。今回のコロナショックよりもひどく景気が落ちこみ、リーマンショックよりも長い期間、不況に苦しみました。
ロシアもまた欧米からの経済制裁を受け、コロナ禍で経済は良くありません。ロシアの株価は昨年10月から3割近くも下落しています。今ウクライナとロシアがリアルな戦争をすれば、双方とも長期戦に耐えるだけの経済的体力はありません。そして、ドイツや欧州にとっても、戦争によって厳冬下でガス供給が止まれば、経済的打撃も大きく、国民が凍死するリスクすらあります。よって、現場の当事者は誰もウクライナとロシアの戦争を望んでいないのがホンネです。
ウクライナ情勢について特に米国メディアがロシア侵攻を煽るような報道をしていますが、私は、欧州とロシアはパイプラインをめぐる経済安全保障上の問題は外交で解決する方向に向かうと見ています。その場合、ロシアは本当の敵はバイデン政権と見ていますから、自らの手を汚すことなく、米国に対する報復を図る可能性があります。北朝鮮を使って米国に向けて大陸間弾道ミサイルを発射するのです。1月に北朝鮮はなんどもミサイルを発射し、日本海に落下していますが、その軌道は北米西海岸に向けています。
朝鮮半島では、第2次世界大戦後の米ソ冷戦で南北に分断された韓国と北朝鮮とが睨み合う状況が続いてきました。かつての冷戦時代に分断された東西ドイツや南北ベトナムは、ソ連崩壊後に統一に向かいました。朝鮮半島だけが唯一、冷戦終結後も分断されたままになっているのです。
下の【地図】は中国大陸から見た逆さ地図です。中国は内陸から海洋へとその勢力を張り出し、太平洋へ出ようとしています。北朝鮮は中国とロシアの支援を得て、韓国と対峙し、韓国は朝鮮半島の先端で米軍と共産主義勢力の緩衝国家として機能してきました。
この逆さ地図から見ると、日本は太平洋西側の米国勢力の最大の防波堤であることが明瞭です。中国は、日本から伸びる第1列島線まで勢力を拡大しています。仮に、3月の韓国の大統領選挙の頃に、朝鮮半島が統一に向けて動き出すことになれば、日本列島が唯一、米国側の緩衝国家として取り残されることになります。これは日本の安全保障上の一大事です。
プーチン大統領は冷酷冷徹な国家理性の持ち主です。米国の経済制裁を止めさせ、ロシア領土を守るために、彼は中国や北朝鮮を利用するでしょう。ロシアは米中が対立し、互いに消耗し合うことを望みます。一方、中国を利用して米国に圧力をかけようとします。その手先が北朝鮮です。ここで米露がどのような交渉を行うか?
おそらく、朝鮮半島のメルトダウンによって第2次世界大戦は完全に清算され、次の世界秩序に向かうでしょう。その矢面に立つのが、太平洋西側にぽっかり浮かぶ日本列島です。朝鮮戦争が終結し、朝鮮半島が統一されれば日米同盟の意義が失われます。次の世界秩序構築に向けて日米同盟が仕切り直しになる場合には、日本が列強の緩衝国家と見なされ、列強間の交渉が進むでしょう。まさにヤルタ会談の時点まで歴史が振り出しに戻るのです。
ウクライナ同様、日本も冷酷な世界の流れの中で緩衝国家として取り残されようとしている・・・こうしたリスクを知ろうともしない、独立国家として専守防衛もしない日本。どこへ漂流していくのか?
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