グローバルストリームニュース
国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

SHOGUNとグランドストラテジー

 真田広之さんが監督主演を務めた「SHOGUN」が、米国の優れたテレビドラマや番組に送られるエミー賞を受賞し話題になりました。SHOGUNの原作はジェームズ・クラヴェル著「将軍」(1975年)で、さすがはハリウッド、徳川家康と三浦按針、細川ガラシャをモデルに戦国時代の謀略に明け暮れる動乱の世を迫力ある映像に仕上げています。

 家康といえば、NHK大河ドラマや邦画コメディ「もしも家康が総理大臣になったら」でこのところ流行りのキャラクターのようです。ちょうど私も福山隆著『謀略の関ヶ原、なぜ徳川は栄え、豊臣は滅びたのか』を読んだところでした。福山氏は陸上自衛隊元陸将、地下鉄サリン事件のトップを務めた軍事のプロ。人質の身であった家康がどん底からどのように這い上がって天下統一を果たしたのか、家康の謀略を歴史事実を踏まえつつ軍事のプロが忠実に分析した見事な内容です。

 福山氏の著書の帯には「戦国時代の日本は世界一の超武装国家だった」と記されています。当時はあらゆる謀略(暗殺、スパイ、扇動等々)が蔓延った凄い時代でした。今の平和ボケした日本と比べると、同じ日本民族とは思えません。一方、驚くべきことに、戦国の世とはいえ野獣的で無作為な殺戮に明け暮れるのではなく、独特な「秩序」が印象的です。支配階級トップの武士は肉体的な訓練のほかに茶道や能を嗜み、文化的な教養やコミュニケーション作法を共有しつつ、互いに狭い茶室の中で腹を探り合います。そして信長や秀吉のように権力のトップを極めたリーダーにはそれなりの美意識と様式(スタイル)が際立っていたのです。

 武士道には超武装国家で磨かれた日本独自の高潔な規範と規律が刻まれていると言えます。そうした戦国時代を勝ち抜いて天下統一を果たした家康。用意周到で慎重な家康が築いた徳川将軍家による支配体制において、国内では武士道が支配階級の規範として温存され、加えて財力をもった商人たちがそうした禁欲的なエートスを実際の経済活動に応用することで、江戸を中心に日本独自の政治経済圏が発展していきました。

 さて、ウィリアム・アダムズ(のちの三浦按針)はアルマダ海戦を戦った英国国教徒で、同じプロテスタント国家オランダによる東洋遠征隊に志願し、リーフデ号に乗り込みました。同船は関ヶ原の合戦の半年ほど前に難破し、黒島(大分県)で救出され、やがて安針は家康に謁見します。家康は安針から、16世紀後半から17世紀にかけてヨーロッパで起こった宗教改革とカソリックとプロテスタントの戦争、国民国家の台頭、オランダ貿易国家の勃興について生の情報を得ます。聡明な家康は世界で起こっている覇権争いを知り、そして日本もこのままではスペイン・ポルトガル連合軍に支配され、植民化されるリスクを認識します。

 家康以前には豊臣秀吉がバテレン追放令を出し、日本人の奴隷化を防ぎました。幸運なことに、秀吉同様、家康もまた「世界の中の日本」の置かれた立場を客観的に把握し、「大戦略グランド・ストラテジー」を組み立てる才能がありました。その延長線上に徳川体制の鎖国政策が徹底されました。

 戦国の乱世における日本の最大かつ致命的なリスクは、諸国の大名がキリスト教徒と非キリスト教徒に分断され、互いに争い消耗し、やがて日本が植民地化され、日本人全員が奴隷にされることでした。現にキリシタン大名らが領地をイエズス会に寄進し、そこは日本の国土でありながら、イエズス会の支配に隷属するという「租界」のようになっていたのです。家康は自らの「天下統一」の野望は、日本の独立無しにはあり得ないと悟ります。

 もし家康が日本を海外勢に売り渡し、その傀儡政権として国を支配していれば、我々日本人はインディオのように滅ぼされたか、奴隷として世界中に売られていたはずです。戦国時代に日本人の生命と財産を他国に売り渡すことなく守り抜き、260年の天下泰平の基盤を作ったことこそが家康の偉業だったのです。

 家康は三浦按針を登用し、鎖国の傍ら出島でオランダのみと交易し、限られた窓からではありますが、常に世界情勢をウォッチしていました。そこには日本の内情を海外の仮想敵国に漏えいしないという安全保障上のリスク管理もありました。しかし、やがて徳川幕藩体制は金属疲労を起こし、黒船と外圧の前に体制変更を強いられます。そこから明治維新と日本の近代化が始まります。

 翻って現在の日本。明治維新から150年、戦後80年になります。自民党政権も「55年体制」の金属疲労を起こし、日米同盟の根幹が揺らげば日本は致命的な安全保障上のリスクを抱えます。他国からの軍事攻撃があれば、実質的な占領の危機さえあります。そうはいえど、すでに日本の土地や水源、資産は海外勢に買収され、中国大陸からの移民が増大しそのまま数世代が日本に住み続ければ、彼らによるサイレント・インベージョンが成功し、彼らは実質的に日本を植民地化するでしょう。

 かつての戦乱の世に超武装国家のトップに立った家康、彼が総理だったらどのような「グランドストラテジー(大戦略)」を示すだろうか?石破新総理には国内政局や憲法改正の前に、まずはリーダーとして海外勢に国を売り渡すことのないよう「グランドストラテジー」を決めていただきたい。そうでなければ、我々は次なるSHOGUNを期待するか、あるいは生き残りを賭けて自主防衛と新たな国造りを始めざるを得ないでしょう。

ヘッジファンドニュースレター

コメントは締め切りました。