グローバルストリームニュース
国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

イラン情勢:「経済的自由」を求める国民 神権政治から脱却できるか?

 ご存知のように、イランでは昨年12月末から大きなデモが発生し、全国に拡大してきました。イランに再び革命が起こるのか?トランプ政権は軍事介入するのか?イスラエルは軍事攻撃するのか?緊迫した情勢のなか、1/16にトランプ大統領が軍事介入を一時的に見送ったと報じられました。

 実際、米国は軍事介入を着々と準備していますが、トランプ氏が反政府デモ参加者に対してイラン政府が800人以上の公開処刑を中止したために土壇場で攻撃を停止したと報じられています。よって、軍事介入の準備は引き続き進められており、今後も予断を許さない状況です。

 一方ワシントンポスト紙によると、イランとイスラエルの間にはロシアを通して以下のような秘密裏の取り決めがあったようです。

12月下旬にイランで抗議活動が勃発する数日前、イスラエル当局はロシア経由でイラン指導部に、自国が先制攻撃を受けない限りイランへの攻撃を行わないと伝達した。このやり取りを知る外交官や地域当局者によると、イランもロシア経由で、自国も先制攻撃を控えると応答したという。

 おそらくトランプ政権はこの裏取引について、ロシア側から何らかの示唆を得ていたのかもしれません。いずれにせよ今回のイランの大規模デモは、既存の体制に大きな変化をもたらすと予想されます。なぜなら今回のデモは国民の経済的困窮から引き起こされた運動だからです。自国通貨の価値は崩壊し、デノミと超インフレで国民は預金が紙クズになり明日の食糧さえ買えない、しかもネットが遮断され、情報もない。イランの人々は1979年以来続いてきたイランの「神権政治」(宗教的権威が世俗政治と一体化した体制)が続けば国民経済が崩壊する(飢え死にしかない!)と抗議しているのです。

 これまでイランは長年にわたる米国の経済制裁を受けてきました。特に2018年にトランプ政権が核合意(JCPOA)から離脱して以降、イランに対する制裁が再開・強化されてきました。加えて、イランでは過去6年連続して深刻な干ばつと不作があり、2025年にはダムの枯渇により水不足に陥りました。このように農業と食料事情が悪化し、特に首都テヘランでは水不足が危機的になりました。どんどん悪いことが重なって、イランの国民経済が「限界点」に達したと言えます。

 もう一点、イランの人口動態から構造的な問題がみてとれます。イランの人口は9200万人、ペルシャ系が6割を占める多民族国家で、宗教的には9割がシーア派です。そして人口動態を見ると、25歳から44歳までの層が大きな割合を占めます。この世代は家庭を築こうとする一方で収入のピーク期を迎えようとしています。もう少し幅広にみたボリュームゾーンは20〜55歳の働き盛りで、伝統的な習慣を守りながら暮らしてきたのに、日常の生活すら成り立たなくなったというのが現実です。政府が強制力で抑圧しても、国民の中枢をなす「生産者層」大部分の不満を鎮静化するのはもはや不可能です。

引用:Geopolitical Futures誌(2026年1月16日付け)

 イランの現政権は宗教指導者を中核とした「神権政治体制」で、その下に「イラン革命防衛隊」と呼ばれる超エリート組織があります。1979年に英米の傀儡政権とされたパーレビ(パフラヴィー朝皇帝モハンマド・レザー・シャー)国王が追放され王政が崩壊し、ホメイニ師がイスラム共和制のトップに就いて、イスラム法に基づく原理主義的な国体が建設されました。この「イスラム革命」の成果を守り続けるのが「イラン革命防衛隊」です。

 「イラン革命防衛隊」は国軍(正規軍)や警察とは別に独自の陸海空、特殊部隊(コッズ部隊は有名)、情報部を有し、多数の系列企業(建設、不動産、石油事業など巨大企業や財団)を傘下に置いています。総じて「イラン革命防衛隊」は国家の中枢をなす「超精鋭主義」の集団で、経済的支配力と多大な政治的影響力を持ちます。

 イランでは伝統的にバザール商人が経済力を持ってきました。ホメイニ師のイスラム革命後も富裕で保守的な商人階層が聖職者(宗教指導者)を支持してきました。ところが米国の経済制裁が長引き貿易が途絶え、通貨暴落がバザール商人層を直撃し、彼らは深刻な経済危機に直面しました。そんな中でイラン政府は原油を中国に輸出し稼いでいるのですが、その利権は全て「イラン革命防衛隊」が独占しています。

 このエリート集団はネットを遮断し、商人層から「経済的な自由」を全て剥奪しました。そして、「イラン革命防衛隊」傘下の民兵組織「バスィージ」は神権政治体制を守る名目で、反政府デモや抗議活動の参加者に対して容赦なく凄惨な仕打ちをしています。こうした野蛮な行動は今に始まったことではなく、長い間深刻な人権問題として世界から非難されてきたことなのです。

 不安定化するイランでは今後、秩序維持のためにさらに多くの治安・財政資源が必要となり、国家の経済政策や運営能力、そして国外の諸問題への対応力が低下するのは目に見えています。トランプ政権はこうしたイランの人口動態の圧力を正確に理解していると思われます。ベネズエラのケースもそうでしたが、トランプ政権は短期的な軍事介入で成果を上げ、その後はその国に内政干渉を続けることはなく、むしろ政治的安定を優先し、ディールによって米国の経済的利益を確保するという実利主義に徹していくと考えられます。

 米国の軍事介入の有無に関わらず、ハメネイ師を中核とした「神権政治」は崩壊しつつあります。イラン国民が宗教的な対立とかイデオロギー闘争ではなく、経済的自由を求める戦いが始まる、その意味では「市民革命」が始まっていると、私は考えています。そして、経済破綻の最中「イラン革命防衛隊」の利権も失われ、「神権政治」が崩壊すれば彼らの正当性の根拠すらなくなり、その存在は消滅するはずです。それでも自国民に対する残虐な行為を続けられるのか??

ヘッジファンドニュースレター

コメントは締め切りました。