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国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

イランをめぐる戦争: 水は石油よりも重い トランプに「黄金の出口」戦略はあるのか?繰り返される日本のエネルギー危機

米国とイスラエルによるイラン攻撃が始まって13日が経ちました。これまでの情勢分析については、3月12日のニコ生放送でお伝えしました。ぜひご覧になってください。

▶ YouTubeで見る|トランプ「ご乱心」?中東情勢で大打撃 世界経済・株価・原油・金

誰も望んでいない戦争 イスラエルを除いては・・・

この攻撃について「トランプ政権がイスラエルとその強力なロビーによって引き込まれた結果起こったことで、イランは米国にとって実質的な脅威ではなかった」とルビオ国務長官やジョンソン下院議長自身もそれを認めています。米の世論調査によると国民の2割しかこの戦争を肯定しない、イスラエルを除いては誰も望まない戦争なのです。

そして、ウォール街も金融市場も戦争がいつまで続くのか、トランプ氏が想定するような「黄金の出口」があるのかを見極めようとしています。我々はこの戦争が長引けば石油が不足し、インフレだ、不況だと懸念していますが、双方の攻撃がエスカレーション(激化)していくと本当に「人類の危機」になる。それは「水」の問題です。

水は石油よりも重い 極度の人道的危機

イスラエルと米国の攻撃に対し、イランはイスラエルと中東に点在する米軍基地のみならず湾岸周辺国へも弾道ミサイルやドローンで報復攻撃しています。サウジの石油精製施設、UAEの製油所、カタールのLNGプラントなども操業停止の状態です。

さらに相互の攻撃の標的はエネルギー関連施設のみならず、海水淡水化プラントを攻撃し合う危険な様相を呈してきています。イスラエルには4〜5か所の大規模淡水化プラントがあり、破壊されれば壊滅的だし、クウェートでは飲料水の90%を淡水化プラントに依存、サウジは70%、オマーンは76%依存しています。こうしたプラントが破壊されていくと、酷暑・極乾燥の湾岸諸国は事実上、人が住めない地域になります。この戦争によって、湾岸諸国の一般市民は水、食糧、エネルギーというライフラインを完全に止められ、灼熱の砂漠の中で極度の人道的危機に陥ると予想されます。

トランプ氏は9日に「戦争完了は近い」とCBSとのインタビューに答えたが、現実に収拾がつかないくらい戦火は拡大しつつあるように見えます。しかも、攻撃開始と同時に「斬首作戦」でトランプ氏にとって最も穏健な交渉相手だった最高指導者ハメネイ師をイスラエルが抹殺したことで、イランはますます態度を硬化させています。ハメネイ師を継いだ次男のモジタバ師はイスラム革命防衛軍(IRGC)を自身の権力下に置くためにより強硬路線を貫き、権力を掌握するしかありません。イランが「無条件降伏」せずに生き延びる道はそれしかないのです。

トランプ氏の信用失墜 金の切れ目は縁の切れ目

イランと対峙する湾岸諸国は、目下米に対する深い裏切り感をいだいているはずです。米軍基地を自国に置いている湾岸諸国は「イスラエルがカタールを攻撃したとき、米国はイスラエルと連合し、我々を守らなかった、基地を提供し米国に多額の資金を提供してきた我々は安全なのか?」といった思いです。

昨年5月にサウジ、UAE、カタールが米国へのAI投資、米国製の武器購入など大型ディール総額数兆ドルをまとめたが、イランによる攻撃で自国復興のために資金が回されて米への投資を取りやめるかもしれない・・・

さらに、今年の1月にトランプ氏はダボス会議に出席し、国連に代わる「平和評議会」立ち上げを宣言しました。加盟にあたり常任メンバー国は最低10億ドルの支出が必須ですが、その時に支援を表明したのは、サウジ、カタール、UAE、トルコ、エジプト、ヨルダン、インドネシア、パキスタン。今の中東情勢を見れば、そんな支援金も「平和評議会」もすっ飛んでしまったと言えると思います。

一言で言えば、トランプ氏に追随してきたが、もはや信頼できない、信用がなくなれば投資もなくなります。「金の切れ目は縁の切れ目」です。

ロシアの制裁解除「漁夫の利」か?

トランプ氏は9日にプーチン氏と電話で1時間以上会談しました。そして13日、ベッセント財務長官はロシアの制裁解除を発表しました。ロシアからの原油輸出がスムーズに行われるようにと取り計らったようです。

昨年8月15日にアラスカでの米露首脳会談以降、米露が密かに世界の原油供給を牛耳るための利益共同体を画策してきたのではないかと私は考えていました。今こそ、米がイラン攻撃をきっかけに、米露で相互に中国を牽制し、その間にイスラエルとイランが全面戦争し勢力を消耗しあう・・・こんなシナリオがあるのではないかと推測します。

いずれにせよ、ロシアはイランをめぐる戦争で米国が消耗するのを利用して、ウクライナ戦争を優位に終戦に導く手を尽くすでしょう。インドに石油も売れるし、「漁夫の利」を得る立場に立っています。

「泣きっ面にハチ」、TACOになれば・・・

トランプ政権は、イランに対し地上軍の投入を開始します。米兵ではなく、クルド人兵士を送り込むといった作戦です。しかし、この作戦はあまりにも無謀です。ミアシャイマー博士は歴史上「空爆だけで政権転覆したケースはない」と語り、このまま地上戦を繰り広げても、イランはヒスボラ、ハマス、フーシ派を使ってイスラエルを攻撃し、イスラエルは多面戦を強いられ、消耗します。湾岸諸国でもテロが活発化し、中東地域は手のつけられないほどの戦火にまみれ、地獄の沙汰となります。

このまま戦争が激化していけば、今後トランプ政権にとっても良いことはなさそうです。

以下、これから3〜6ヶ月で起こりそうなことをリストアップすると・・・

  • 中東から投資マネーは来ない
  • インフレ不況になり 失業増加
  • 7月の独立記念日に向けて反戦デモが増える
  • MAGAは分裂し、中間選挙で不利
  • 中露が漁夫の利を得る一方、米国は覇権を失っていく
  • 国内でテロが続発し、治安悪化

トランプ政権にはイラン戦争からの名誉ある撤退、あるいは勝利を掲げての「黄金の出口」はなさそうです。シカゴ大学政治学のロバート・ペイプ教授(安全保障、テロ対策専門家)は、トランプ氏は損失を認め、後退すべきであると述べています。投資に例えるとストップロスと損切りのような感じでしょうか。

9日にプーチン氏との電話会談があったことを踏まえれば、政権内ではおそらく仲介国と数カ国を通してイランとの外交交渉が進んでいると想像できます。個人的には、トランプがTACO(=トランプはいつも最終的にはビビって撤回する)を出して、イラン攻撃から撤退することを望みます。

繰り返される日本のエネルギー危機

今回のホルムズ海峡封鎖が長引き、湾岸からの石油供給が止まると、ペルシャ湾からの石油に依存する日本、台湾、韓国には多大な経済的損失が出そうです。原油価格の値上がりは電力コスト上昇、物価上昇、インフレに直結し、産業基盤全体、そしてサプライチェーンの分断など経済に甚大な影響が及び、景気後退は必須です。

日本は1970年代の石油危機以降、50年経ってもペルシャ湾依存から脱却できていません。かつてホルムズ海峡を通過しないで石油を日本に供給する代替ルートとして、「フジャイラ」経由でアラビア海に出てインド洋を通るルートが数十年前から計画されてきました。私の尊敬する唐沢敬先生(立命館大学名誉教授)は長年エネルギー政策に携わり、フジャイラ港の大規模油田開発に関わって来られました。現在、この権益はどうなっているのか? 今回のようなペルシャ湾での危機のたびに日本のエネルギー政策の貧困さを思い知ります。

▶ YouTubeで見る|唐沢敬先生との対談(2025年11月5日ニコ生)

目下の中東情勢の危機で、日本でもすでにガソリン価格が上昇し、3ヶ月もすれば物価上昇が予想されます。我が国は砂漠の湾岸諸国とは異なり水に恵まれて豊かです。しかし貴重な水源は中国資本に乗っ取られつつあり、エネルギーも食糧も海外に依存しています。中東での人道危機は「明日は我が身」と肝に銘じるべきです。

「備えあれば憂いなし」は現政権下では「サナエあれば憂いなし」に塗り替えられていますが、実質的な国土強靭化のためには我々のライフライン(水、食糧、エネルギー)を確保し、あらゆる危機(自然災害、国内テロ、海外からの侵略など)に備えるべきでしょう。

参考:ホルムズ海峡封鎖下の代替石油輸送ルートとコスト(3/12付)

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