株高は続くが、信用市場は不安定
オリバー・ストーン監督「ウォール街」は、1987年に世界的にヒットしました。当時レーガノミックスで黄金期のピークに達したウォール街を象徴するストーリーでした。一方で、同年10月19日に株価が大暴落(下落率22.6%)し、ブラック・マンデーと呼ばれました。
映画でマイケル・ダグラス扮するゴードン・ゲッコーは、企業買収を手がける投資銀行家(インベストメント・バンカー)。好景気に沸くウォール街ではゲッコーのような「乗っ取りや」が巨額の収益を上げていました。投資銀行は企業の買収資金を市場から手っ取り早く調達するために、被買収企業の価値を担保にジャンク債やレバレッジド・ローンを発行しました。
ゲッコーの登場から25年。ゼロ金利のおかげで、今年はレバレッジド・ローンやジャンク債の発行残高が過去最高の1兆ドルに達すると予想されています。インカム収入に飢えた投資家は高金利商品へのアペタイトを強め、バイアウト関連プライベート・エクイティファンドの動きもまた活発です。
テーパリング(量的緩和縮小)開始がしばらくは延期され、ゼロ金利が続くという見方から、ジャンク債への需要が続きます。その一方で、発行体である企業側の信用リスクの高まりが指摘されています。(FT紙11月11日付 “Wall Street feeds the ravenous debt beast”)
ジャンク債に加え、信用度の低い企業への過剰な融資や過大なレバレッジ、そして、短期で借入れ不動産へ長期投資を行うリートにおいても質の劣悪化が指摘されています。しかし、マーケット参加者の間には「アニマル・スピリット」が蔓延し、ゲッコーはもうケッコーところまで行きそうな気配です。雇用統計で予想を上回る数字が発表されると、相場はすぐに上昇に転じます。しかし、米国の長期的な雇用の実態は、失業率の数字とは裏腹に1億2百万人もが「職探しをしても職にありつけてない」状況にあるのです。
多くの市場参加者は、実体経済は弱く、鳩派のイエレン次期FRB議長のもと、テーパリングに続いて利上げがあるはずはないと見込んでいます。皮肉なことに、信用不安が金利を押し上げないよう、テーパリングは先送りになりそうです。おそらく、IT革命のような大きなイノベーションと産業構造全体の変革が起こるまでは。