ユーロ圏は日本化しつつあり、混迷深める国際情勢の中で中国は漁夫の利を狙う
ユーロ圏の日本化を懸念
マーケットは、英米が量的緩和の出口に向かうと確信している。FRBは10月で量的緩和策を終了し、イングランド銀行が近々利上げを実施すると見込んでいる。米国市場では利上げのタイミングを見計らい、投資資金が債券市場から流出している。その一方で、ユーロ圏では利下げが実施され、0.05%という超低金利から債券発行の駆け込み需要が膨らんでいる。
中央銀行の金融政策においては、将来のインフレリスクを予想し、金利を調整することで市場や実体経済に混乱を与えないよう取り計らう。マネーは経済全体の血流であり、金利は体温あるいは血圧のようなものだ。今のようなゼロ金利やマイナス金利では、低血圧・低体温症のよろしくない経済状況である。
中央銀行としては体を暖めて臓器の活動を活発にしなくてはならないので、金利を上げることで調整しようとする。しかし、同時に量的緩和でマネーの供給量も増やしているので、低血圧・低体温の人にどんどん輸血をしているようなもので、マネーは滞留し動きが鈍くなってしまう。
一般に賃金、物価、雇用といったマクロ要因から将来のインフレリスクを推し量るため、イングランド銀行の利上げも、労働市場が改善し、賃金と物価も上昇し始めるといった好循環でのインフレ期待がある。しかし、失業率が下がればよいのかというとそれほど単純でもない。
欧州先進国では日本と同じような少子高齢化の人口動態を抱える。長期的な労働人口減少とは筋力が衰えていくようなもので、常日頃、筋トレして体力を持続していかなくてはならない。
具体的には技術革新を進め生産性を高めていく必要があり、官民上げた努力なしには持続的な成長は達成出来ない。景気の舵取りを担う政府の成長戦略が要となる。
実際、国民経済を支えるのはグローバルな競争力を持つリーディング・インダストリーである。日本のメーカーの場合、新興国の増大し続ける需要に応え、現地の消費者ニーズに合った「ボリューム・ゾーン」商品に食い込んでいく努力を深化させ、国際競争で勝ち残るためには、完成品メーカーはグローバル部品提供者との協業関係を今後さらに構築していかなくてはならず、従来の部品メーカーとの関係はグローバル購買および部品のモジュール化によって、変わらざるを得なくなっている。
(日本の産業構造変革の問題については、森田隆大氏インタビュー記事をご覧下さい。
https://globalstream-news.com/wpgsn/tsuwamono/post-7529/)
こうした産業構造の変革に迫られるのは日本だけではない。リーディング・インダストリーが内需を創造し、成長を牽引するので、思い切った体質改善を政府が押し進めなければ、どんなに金利を下げても筋力は衰え、失業が増え、悪いインフレの「スタグフレーション」というあり地獄に陥ってしまう。
さらに、各国で実質ゼロまたはマイナス金利が恒常化すれば、キャリートレードのうまみはなくなってしまう。
混迷深める国際情勢 漁夫の利を狙う中国
加えて、国際情勢では不安定化が拡がっている。イラクではイスラム教スンニ派過激は組織「イスラム国」に対してイラク政府軍と米軍が空爆を行い、また、ウクライナに関してはユーロ圏が追加のロシア経済制裁を決定する。さらに、リビアでは、イスラム過激派と見られる自警団がトリポリのアメリカ大使館を占拠し、米国を挑発するような動画を公開している。リビアは無政府状態の様相を呈している。
シリアでは3百万人もの難民が隣国のレバノンやヨルダンに流入している。特にレバノンではシリア難民が百万人を超え、自国の人口の四分の一にもあたる難民受け入れには既にキャパシティを超えている。
人道的支援の観点からも、米国がこうした地域紛争にどう関わるのか、オバマ大統領の外交政策が注目される。仮に、「イスラム国」への戦いを掲げ、イラク、シリア、リビアでの軍事介入が拡大すれば、イラン、パキスタンへ不安定化が拡大することになる。同時に、ヨルダンやエジプトなど中東の親米国でも反米感情が拡がるなどのリスクを伴う。オバマ大統領が11月の中間選挙を控え、思い切った軍事行動を起こす可能性もある。
こうした先行き不透明な情勢は、通貨市場のリスクに反映され、さらに各国の通貨で発行される株式市場のリスクに反映される。現にロシアの株価は大幅に下落し、8月29日にロシアルーブルは対ドルで最安値を付けた。
何がきっかけで「ファットテイル・リスク」が起こるのか注力する必要がある。「ファットテイル」とはリーマンショックのように起こる確率は極めて小さいものの、一旦起これば市場に極めて大きな損失をもたらす。
ユーロ圏と日本では量的緩和が続き、さらに、ウクライナ政府債のデフォルト懸念などから「質への逃避」のため安全性の高いドイツ国債や米国債に資金が流入し、長期債の利回りが低下し、大量のマネーが市場に溢れ、不安定さを助長しやすい環境となっている。地政学リスクが国際金融市場に波及すれば、その損失幅が増長するだろう。
そうした状況下、中国が隙き間を突いた「漁夫の利」を狙っている。例えば、アルゼンチンのデフォルト(債務不履行)問題では、中国がアルゼンチンに支援を申し出て、両国は3年間で総額110億ドル規模の通貨スワップ協定に調印し、アルゼンチンは輸入品の代金を人民元で支払うことができるようになった。また、対ロ制裁についても中国は米国の提案に応じる様子はない。対ロ制裁でマイナスの影響が予想される東欧や中欧諸国では中国の影響が強まりそうだ。
コメントは終了ですが、トラックバックピンポンは開いています。