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国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

バブルと中央銀行の役割  ギリシャ危機と上海株バブルを考える

そもそも中央銀行の役割は、自国の物価安定に加え、雇用や成長を促す金融政策を実施することにある。ところが、今や中央銀行の表立った動きが、通貨・株式などあらゆる金融市場に支配的な影響力を及ぼしている。著名な通貨ストラテジスト、サイモン・デリック氏はこの状況を「中央銀行相場」と称している。そのトレンドは1987年のブラックマンデーから始まり、株価暴落に対処したFRBグリーンスパン元理事長の手腕がその後のFRBの役割を決定的なものにしていった。

ウォール街との対話を重視したグリーンスパン氏は、金融危機のたびに市場の混乱を抑えようと緩和策を打ち出して来た。そのため、市場参加者は何か悪い事が起こればFRBが支えてくれるとばかりに、過度のリスクを取るようになっていった。トレーダーや他人の資金で自らの利益のためにはリスクを取り、勝てば懐にボーナス、負ければFRBが尻拭いする。この状態をデリック氏は「Fed put」(連銀によるプット・プション)と称している。

こうして、リスクの最小化が投資運用の鉄則にもかかわらず、市場参加者は自己の収益のために博打を張るようになった。彼らの強欲な心理は「アニマルスピリット」として市場に浸透し、その結果、信用市場ではレバレッジが膨み、通貨市場では過去20年でキャリートレードが主流となり、バブル生成の下地を形成した。

そして、過度のリスクが1998年ロシア危機、2000年ITバブル崩壊で危機をもたらした。危機の度毎に、市場参加者のモラル・ハザードが指摘されてきたが、それでも、その度毎に中央銀行が信用供与を行い(市場を守るために尻拭いし)、さらなるリスクが増幅され、ついに2008年のリーマンショックで大爆発となった。

しかし、現在、FRB、ECB、日銀が大規模な量的緩和を実施し、「中央銀行相場」は世界レベルに拡散している。ユーロ圏ではギリシャ危機解決の「問題先送り」が緩和策とパッケージになっている。こうなると、バブル生成の元凶は中央銀行に加え、政権維持のために株価対策を重視する政府の政策にもあるといえる。「政策に売りなし」と言われるが、日本でも現政権は「株価リンク内閣」と称されている。株価が不安定化・下落すれば、内閣不支持率が上昇するし、その逆もある。

先進国が「株価連動型政権」となるなか、上海や深圳の株価動向が注目される。中国は21世紀に入り、大規模な外資導入で巨額の設備投資を行い、世界の工場に成り上がった。日本の高度成長では民間銀行が長期資本を成長産業に安定供給するという産業金融の発展が見られたが、中国では国有銀行が主流であり、世帯当り40%という高い貯蓄率で積み上った民間資金を効率的に産業金融として活用できていない。その一方で、人々の預金は金融緩和の流れに乗って、不動産や株式に向かい、シャドーバンクなど諸問題を起こしつつも、「貯蓄から投機へ」(「投資」ではない、博打!)と、資産バブルが形成されていった。中国も「株価連動型共産党政権」の様相を呈し、これからはAIIBを主導し、インフラ投資など新たな内需を起こし、成長を続けようとしている。

 

上海株、週間で7年ぶり下落率13% 高値警戒感強まる(6月20日日経記事)

http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM19H6N_Z10C15A6FF2000/

 

各国中央銀行と政府系ファンドなどの巨額資金が次なるブームへと向かうのか。それとも収束するのか。FRBの利上げが注目である。

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