TPP大筋合意で見えてくるものとは?
5日夜遅くに、TPP(環太平洋経済連携協定)の閣僚会合で交渉参加12カ国が大筋合意に至ったというニュースが流れた。
TPPが各政府で承認を受け、正式にスタートすれば、
- 米国の貿易通商上の覇権が環太平洋地域で確定する。
- 金融市場では米ドルの覇権が確立する。
- TPPとAIIB、世界は米国とユーラシアの2極体制へ移行する。
TPPを明るい材料ととらえ、金融市場はリスクオフからリスクオンへと向かうのだろうか。
マネーは米国へ向かう
10月2日までの1週間、グローバルな投資マネーが米国株・米国債・米ドルへ流入し続けた。中国の経済成長の減速、原油・コモディティ価格の下落、ブラジル格下げとラテンアメリカや新興市場からの資本流出で、投資マネーは米国へと向かった。9月17日にFRBによるゼロ金利解除がなかったにもかかわらず、10月に入り、投資マネーはリスク回避へ向かっている。そして、ここに来て、TPPを明るい材料ととらえ、投資マネーはリスクオンへと向かうのだろうか。各国がスムーズにTPP批准となるかどうかを見守る必要がある。
太平洋は米国の海
TPPが正式にスタートすれば、参加国(米国、カナダ、メキシコ、ペルー、チリ、そして、日本、シンガポール、マレーシア、ベトナム、ブルネイ、オーストラリア、ニュージーランド)は世界貿易の4割を支配する。米国はこの巨大な貿易圏のルールを仕切ることになる。1994年クリントン政権時の北米自由貿易協定(NAFTA)や95年WTOに加え、米国の通商貿易政策にとっての快挙である。オバマ大統領の任期中にTPPが正式にスタートすれば、彼は「TPP合衆国」の大統領として、中国やインド、ユーロ圏に対して優位性を勝ち取ろうとするだろう。
TPPで日本の主権はなくなる
日本にとってTPPはどのような影響をもたらすだろうか。TPPは一国の主権を超える条約となるので、日本国内の政治や産業政策もいっそう米国のルール下におかれる。これまでは「外圧をテコに、国内の岩盤規制が緩和できる」といったポジティブな見方が通用したが、今度のTPPはそんな甘いものではない。苫米地英人氏は『TPPが民主主義を破壊する』(2013年)で、「TPPは国家主権を超えて、国内法を改正させる威力を持つ。・・・国会議員ですら存在意義がなくなる」と明快に述べている。
米ドルが世界の金融を支配
米国はTPPをテコに、南北アメリカ大陸から環太平洋地域に及ぶ通商貿易圏を囲い込み、そして基軸通貨ドルの決済圏、すなわち、金融における支配圏を確定していく。目下、米国は世界のGDPの23%を占めているが、世界の人々の60%は米ドルの影響下で暮らしている。豪ドルなど多くの国の通貨が米ドルにペッグしているためだ。
エコノミスト誌記事 ”Dominant and dangerous”では、米国金融資本主義が揺らぐ時にドルの信用は支えられなくなるという一見ヤッカミのよう内容が、裏返せば、それだけ強大な覇権を米国が握っていると事実を指摘している。
事実、米国は金融を国家の大戦略と位置づけ、覇権のツールとして有効活用してきた。つまり、軍事力による支配ではなく、基軸通貨による国際金融市場での支配強化に切り替えて来たのだ。たとえば、同記事によれば、米企業の株式は国際金融市場で取引される株式の24%を占める。1999年には39%を占めていたのだが、BRICsや新興市場の影響でそのシェアはやや低下した。ところが、ウォール街のファンドマネジャーは、10年前には世界の資金の44%を運用していたが、現在は55%を運用している。
米国が狙う日本郵政
米国の金融資本がいかに戦略的に世界市場で確固たるポジションを築いてきたか。こうした米ドルの覇権に対抗し、中国も人民元の国際化を果たせるだろうか。そして、日本円の行方は?
筆者は、米国にとって積年のターゲットである「日本郵政」の行く末を心配している。このお金は政府のものではない。国民一人一人が一生懸命働いて貯蓄した正真正銘の「国富」である。11月4日にゆうちょ・かんぽが上場する。苫米地氏も著書のなかで、「TPP参加に向けた地ならし(=郵貯・かんぽ資金の外資への流入準備)が着々と行われているようです」と指摘している。
コメントは終了ですが、トラックバックピンポンは開いています。