日銀黒田総裁がマイナス金利を導入し、日本国債10年物も史上初のマイナス金利を付けた。現状の市場心理もこの現象には、大きなリスクを感じている。なにしろ、マイナス金利自体が非資本主義的であり、「利子が利子を生む」ことで投資が促進され、拡大再生産を実現するという資本主義の大原則を覆す危険がある。さらに、貨幣の価値、すなわち円の価値すらなくなるというリスクもはらんでいる。
マイナス金利でいっとき得するのは、国債という名のもとに借金を増やし続けてきた政府ではないだろうか。利子の支払い分が減るので国庫にとってしばし負担がラクになる。ただし財政赤字を元本から減らせるような効果はないだろう。当面、日銀が株や国債を購入する「最後の買い手」と位置づけられ、投資家がそう確信しているうちは、短期収益を狙う売買が活発になるだろう。ただし、日銀が中央銀行としての信認を確保できればという前提条件がある。
こうした異常事態が長く続くと、国民は一生懸命働いて将来のためにお金を貯める気力が徐々になくなり、勤労意欲を失い、若者は将来にますます希望が持てなくなってしまう。これこそが大きな社会的リスクである。日本の資本主義を支えて来た勤勉な精神や貯蓄、堅実な経営の基盤が失われてしまう。
日本の国民経済を芯から支えるのは中堅中小企業である。そのなかには、独自技術を持ち、グローバルに成長する機運に満ちた経営者も多い。成長期にさしかかると企業は設備投資や販促のために資金需要が増えてくる。ここで問題なのが資金調達である。多くの経営者は融資を受けるために銀行に担保を差し入れる。自社株を担保に差し出している場合、株価が急激に下げると担保不足となり、不安にかられた銀行が貸し渋りや貸し剥がしといった行動にでる懸念がある。リーマンショックの直後には、貸し剥がしで黒字倒産に見舞われた優良中小企業が筆者の周囲でも見られた。
マイナス金利で銀行の預金金利が下がるのであれば、成長戦略の一貫として中小企業への貸出金利も下げてはどうだろうか。担保主義だけでは、第一担保を握るメガバンク、第二担保を持つ地銀の力関係において地域金融機関はますます苦しくなるばかりである。
今年度の決算に向けて、多くの経営者や年金基金運用者の注目は、3月31日の日経平均株価であろう。この時に株価が年初下落前の昨年12月後半のレベルにまで戻るのであれば、企業は四月から新年度に向かうにあたり、やや安心感が拡がるであろう。そのため、2月26-27日のG20 に向けて、さらなるマイナス金利、もしくは、なんらかのカンフル剤、株価浮上策が出てくるのではないか。
アベノミクスも正念場に差し迫っている。成長戦略の一貫として3月31日の帳尻合わせが無事済めば、新年度から経済を良くしていこうという勤勉・努力を持って展望が開けてくると思われる。
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