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国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

伊勢志摩サミット、消費税増税見送りの後に来るもの

 5月後半の注目は伊勢志摩サミットである。安倍政権としてはサミットを成功させ、7月の参院選を勝利に持ち込むまでは円安・株高を維持したいところだ。マーケットでは消費税増税先送りは既に織り込み済みであり、黒田総裁もマイナス金利をこれ以上深化させることはなく、現状維持と予想されている。

 果たして世界はこれをどう見ているのか。元ムーディーズで日本の事業会社の格付けを担当した森田隆大氏は、安易な消費税増税の延期・凍結には大きな信用リスクがあると指摘する。現にムーディーズ社は3月に「理由のいかんを問わず、再延期による財政への不安は大きいものになる」と厳しいコメントを示し、国債格下げの可能性を示唆した。

 現在、日本国債格付けはAプラスもしくはAである。消費税増税先送りになった場合、政府はどのように財源を確保し財政赤字を改善するのかについて十分な説明を尽す必要がある。日本の財政規律が不透明で不確実なままであれば、最悪の場合、2ノッチの格下げでA¯(Aマイナス)となる可能性があると森田氏は指摘する。

 この場合、日本国債の投資家の9割が国内の投資家であり、最終的な引取先が日銀であるかぎり消化に問題がないとしても、日本のあらゆる民間企業の発行する債券格付けの上限がA¯となり、銀行や企業はCPや短期資金の調達が困難になると見られる。最上級短期格付けの取得は、長期格付けがA以上であることが基準となるからだ。特に海外で調達金利が上昇し、「ジャパン・プレミアム」などのリスク要因から流動性逼迫のリスクが高まるだろう。

 日本経済の実勢も決して良くはない。18日に発表された1−3月期GDP速報値は1.7%だったが、うるう年の押上効果を除くと年率0.5%の小幅プラスと評価されている。個人消費も企業設備も慎重で不透明感が漂い、力強さを欠いている。金融緩和策でじゃぶじゃぶとなった資金が経済の現場で循環していないのだ。

 国際金融市場では投資資金が株式から債券へシフトし、すでにリスクオフの動きが見られる。6月半ばのFOMCで米国の利上げ期待が高まり、ドル買い、ドル高が進行している。当然ドル高に対する警戒から、米財務省は、先月29日に、対米貿易黒字の大きい日本や中国、ドイツなど5カ国・地域を「監視リスト」に指定した報告書を公表した。米当局は日本の為替介入を牽制している。

 日本政府は財政規律を保ちながらどのようにこれ以上の財政出動を可能にするのか。一歩踏み誤れば、民間企業のグローバル競争力にこれまでにないマイナスの影響を与える恐れがある。

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