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国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

地政学リスクと米国利上げは世界の債券市場に大混乱をまきおこす

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地政学リスクが一気に高まっている。ウクライナ東部でマレーシア航空の旅客機が撃墜され、また、中東ではイスラエル軍がパレスチナ自治区ガザに侵攻し、多数の市民が死傷し、紛争が激化している。マーケットは危機の直後に下げたが、その翌日は反発した。21日は高利回り債などリスクの高い債券が売られたものの、総じて、地政学リスクに対して平静を保っているようにみえる。

マーケットはFRBの動向を注目している。先週イエレンFRB議長が議会証言を行い、ソーシャルネットワーク株や小型株、高利回り債などについて資産インフレと懸念を表明した。また、イエレン議長は、労働市場が予想よりも速く改善すれば、利上げのタイミングも早まると述べた。

実際、これほど長きにわたる金融緩和にもかかわらずインフレはあまり懸念材料となっていない。イエレン議長の希望に沿って労働市場が回復し労賃が上昇し始めれば、金利も上昇に転じると予想される。その場合、投資マネーはどう動くだろうか。利上げの予行練習だったのが、昨年5月のバーナンキ議長(当時)による「テーパリング(量的緩和縮小)発言」だった。この発言を受けて、リスクの高い新興国市場は一斉に下げた。しかし、9月にFRBは大方の予想に反してテーパリングには踏み込まず、タイミングは12月にずれ込んだ。今年1月にはグローバルマネーが新興国から流出し、安全資産の米国債に向かい、かえって米国債利回りが低下した。インド、ブラジル、トルコなど経常赤字を抱える新興国では、資金流出を防ぐために自国の金利を上げなければならず、結果、政治リスクを高めることになった。

今後、ロシアを含め新興国で政治リスクが高まれば高まるほど、また、米国が利上げを実施すれば、新興国では資本流出が止まらず、同時に世界の債券市場は大混乱するだろう。そうした危機に備えてか、17日にBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南ア)五カ国が集まり、米国主導の世界銀行・IMFに対抗して、「新開発銀行」を設立し、外貨準備金創設を決定した。しかし、FT紙(7月22日付)によれば、中国では財政赤字がGDPの250%に達すると報道され、また、ロシアではウクライナや各地で内戦状態に近い紛争が引き続くなか、中国とロシアという元共産国同士が資金を助け合うとは想像しにくい。まさに政治的演出であろう。

米国の実体経済は第一四半期(1−3月期)GDP が前期比年率で2.9%減少とまだ弱く、欧州ユーロ圏も今年の実質的な成長は1%と予想されている。世界の需要は弱含み、力強い成長を伴う物価上昇パターンは描きにくい。米国の消費者物価をみると、食料品や子供服、自動車保険など必需品の価格が上がり始めている。企業がコンスタントな需要のある生活必需品に価格転嫁をしているためだという。さらに金利上昇が加われば、成長を伴わない「悪いインフレ」が、特に低所得層を圧迫することになる。先進国ではさらに格差が拡大し、欧米では移民問題が深刻化するだろう。

市場は、今年10月にテーパリング終了とすでに織り込み済みで、その後のFRBの利上げのタイミングと債券市場の行方を注視している。折しも、中東和平に向けて米国が動き出しているが、「アラブの春」以降、米国の影響力はエジプトなどかつての親米国で極端に低下している。オバマ大統領の威信が地に落ちるのを見る前に、ウォール街は共和党への献金に動き出している。

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