FRB9月利上げのインパクト
2008年のリーマンショック以降、各国中央銀行は量的緩和策を実施してきた。金融危機からの脱却と景気浮上を狙った政策のおかげで、ゼロ金利とインフレ期待が相場を動かしてきた。しかし、FRBのゼロ金利解除のスタンスが明確になり、そのタイミングが9月に早まったという見解が強まるにつれ、また、ギリシャ、中国、イランといった地政学上の動きから見ても、マーケットは、大きな転換点にあるようだ。
これまで、各国中央銀行は、量的緩和策によりインフレを実現しようとしてきた。日銀の黒田総裁も「2年で2%のインフレ率達成」を掲げてきたが、その目標は達成できていない。本来ならば、じゃぶじゃぶの資金がマーケットに溢れ、物価上昇につながると想像しがちだが、資金は実体経済よりも株式などより高い利回りを求めて金融市場に流れ込み、株式や不動産などの資産価格を浮上させ、アセット・バブルを引き起こし、世界の主要な市場で過剰な投機を誘発した。
加えて、地政学上の変動とコモディティ価格の下落に注目したい。英国エコノミスト誌によると、コモディティ価格は2005年を100とすると、2011年に240とピークに達し、現在140まで下げている。2011年には東日本大震災が起こり、アラブの春を機に中東情勢が不安定化し始めた。原発と原油という戦略的資源に対する価値観が変わる大きな節目となった年だ。
今月、米国がイランとの核協議で合意に達し、イランへの経済制裁が弛み、イランの原油量産が見込まれることから原油価格は下落傾向にある。さらに、中国経済の減速から、インフラ整備等の需要減退が見込まれ、鉄鉱石等のコモディティ価格も下げている。また、通常インフレ懸念が高まれば上昇するはずの金価格も下落傾向にある。
このタイミングで、9月にFRBが利上げに踏み切るとすれば、これまで続いて来た「中央銀行相場」が終了することになるだろう。現在、変化の予兆を察してか、多くのファンドマネジャーがキャッシュポジションを積み上げ、虎視眈々とマーケットの変化をウォッチしているという。
利上げはどのくらいのペースで実施されるだろうか。リアルマネー紙(7月21日付)では、9月から0.25%ずつ利上げがあるとすれば、現在の米国債2年物の利回りが0.7%なので、2年ほどかけて三回ほど利上げがあるとマーケットは見込んでいる。さらに、同紙は利上げで金利は正常化に向かい、政府から実体経済へ資金が環流すると指摘している。
国際金融市場では、このFRBの利上げでリスク回避が高まり、新興市場からの大量の資金流出が予想される。ここで再び、ギリシャと中国の動きが注目される。独シュピーゲル紙によると、昨年8月にギリシャ危機の懸念が高まった際、中国のファンドマネジャーがメルケル首相に対し、「ギリシャのユーロ圏離脱があれば、ユーロへの信頼を失い、ユーロ圏発行の債券への投資を取りやめる」と警告したという。結果、メルケル首相は譲歩し、ギリシャはユーロの支援を受け続けている。その一方で、信用収縮に伴い、中国市場もまた、株式や不動産で膨れ上がったバブルが正常化へ向かうだろう。このように、グローバルマネーが縮小に向かうとき、通貨の信認は再び米ドルへと戻されると筆者は考える。
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