グローバルストリームニュース
国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

小康状態の相場、そして長期的に二極化する労働市場、ガバナンスからほど遠かった東芝

ギリシャ危機と中国株式の急落が落ち着き、やや小康状態を取り戻している。どちらも「臭い物にフタ」をしただけで、根本的な解決策には至っていない。こうした環境下、中国の信用市場でロング・ショートを行う知人のヘッジファンドは、ローカルの市場を深く知る運用者にとって絶好の収益機会だと語る。7月に上海株式市場は13%下げたが、年初から7月末まで見ると世界の株式市場の中で最も高いリターンを上げている。下げ幅が大きかったのは原油や鉄価格で7月に20%近く下げ、ショートを得意とする目利きの運用者にとってはチャンス到来だった。
さらに、FRBによるゼロ金利解除間近という見通しから、新興市場では資金流出が続いたが、ここに来て通貨・債券市場のリスクの度合いを示すボラティリティ・インデックスは下がり、小康状態を保っている。ヘッジファンド運用者は、FRBの利上げもすでに織り込まれ、今後の相場変動も十分予想可能であると自信を見せている。先週のFOMCにおいて、9月利上げの可能性を完全に否定する材料は見られなかった。米国GDPとインフレに関するデータは早めの利上げをサポートするだろうし、金曜発表の雇用統計が注目される。
米国の雇用に関しては、これから10年で失業率や低賃金が大きく改善される見通しは暗そうだ。これには人工知能を備えたロボット開発による第二の産業革命の波と高齢化という人口動態が影響しており、米国のみならず日本やG7の先進国にも当てはまる。この二つのマクロ的要因は避けようがない。
マーティン・フォード氏は近著「ロボットの台頭」で、2025年までに今ある3つに1つの職がソフトウェアかロボット、スマート・マシンに置き代わり、人工知能を備えたロボットが50%から75%の実務を代行できるようになると述べている。これが新たな産業革命で、人間は単純な肉体労働から解放され、よりメンタル集中型の仕事に就くようになると予告している。
米国ではベビーブーマーの高齢化の波が押し寄せているが、実態は55歳以上の世帯主の29%が年金も預貯金もないという。統計によれば、55-64歳の貯金高は10万4千ドル、65-74歳では14万8千ドル(中央値)で、多くの年金生活者は生活費のために低賃金でも働かざるを得ない。

 

(ワシントンポスト紙8月2日記事 ”A retirement storm is coming. Are you prepared?” by Micelle Singletary)
http://www.washingtonpost.com/business/get-there/a-retirement-storm-is-coming-are-you-prepared/2015/07/30/388b60d0-3580-11e5-8e66-07b4603ec92a_story.html

 

 

同様の状況は、団塊の世代が退職し年金生活にシフトする日本でも見られる。高齢者が生き甲斐を持って働き続けることは素晴らしいが、若年層の就労の機会を抑制してしまうと、ロボット以下の低賃金で働かざるをえない非正規雇用が増え、労働市場はますます二極化し、世代間格差と賃金格差が広がり、中間層の存続は益々困難になり、政治的には不安定化しそうだ。
最後に、日本株についてひと言。東芝の組織ぐるみの不正会計問題は、2001年12月のエンロン、そして、02年7月のワールドコムの不正会計問題に匹敵するほどのインパクトがあると思う。米国では決算報告書をごまかすのは犯罪であり、エンロンとワールドコムをきっかけに大手企業の不正が次々と明るみに出て、大手監査法人アーサーアンダーソンも解散に追い込まれた。2001年世界同時多発テロに続き、02年の株価も下がり続け、米国経済は不況に陥った。
日本でも東芝以外の大手企業でも会計不正疑惑が明るみに出る可能性がある。大企業のサラリーマン社長はヨコ並びだし、オリンパス事件でもそうであったように、不正がいったん隠蔽されると前任の社長が決めたことを次の社長が引き継ぎ、そのまま隠し通すため、内部告発がない限りなかなかオモテには出ない。同様の内部告発の動きがあっても不思議ではない。東芝の不正事件は米国でも集団訴訟が始まりつつあり、社外取締役も「お飾りだった」ではすまされない。企業統治・ガバナンスの観点から、「臭い物にフタ」をせずに解決するまでしばらく時間がかかるのではないだろうか。

 

「お飾り」だった東芝の社外取締役、内部統制の専門家、八田進二氏が語る企業統治の「魂」(小笠原啓 8月4日、日経ビジネス)
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/073100058/?rt=nocnt

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