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国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

米国保護貿易の行方

 マーケットではECBの金融政策正常化に向けての動きと、米朝会談への期待感から、リスクオンに転じた資金が「ショートスクイーズ(空売りの買い戻し)」を起こし、昨日は米国株式市場が大きく上昇した。

 一方で、中期的に見ると米中貿易戦争など、保護主義への懸念が高まっている。

 6月1日、米国は鉄鋼・アルミニウムの輸入制限を発動し、EU、カナダ、メキシコが揃って報復措置に出ると報じた。今後、自動車の輸入制限発動が実施されれば、米国の保護主義は日本やドイツも含み世界に向けて広がる。

 トランプ大統領の目標は、11月の中間選挙までに、貿易赤字を削減し、国内に雇用を戻す、この2点について目に見えた成果を示すことにある。そのために、自由貿易体制の恩恵を受けて発展してきた国々に対して「オレが作った体制下で儲けた分を返せ」と迫っているようなものだ。

 米国の保護主義に対して各国が報復措置を取り、世界の貿易が縮小すれば、世界的な不景気も予想される。米国内でも中国からの安い輸入品に関税をかければ物価上昇に連動する。実際、共和党内でもトランプ政権が自動車業界を巻き込んだ貿易戦争にまで進むことへの反対意見は強い。

 特に米中貿易戦争が長引く理由は、中国の国家戦略「中国製造2025」が米国の経済安全保障上、脅威になっているためである。

 最先端の航空、宇宙、情報、ロボットを始めとする1300品目に米国は25%の関税をかけるという制裁の内容を報じている。最新技術の知的所有権問題では米国は制裁の手を緩めないだろうから、米中の交渉は長引くだろう。

 また、米中貿易戦争が通貨戦争につながっていく点も注目したい。米国が関税障壁を設ければ、米への輸出が米からの輸入を上回る中国にとって不利になる。中国は輸出を拡大するために人民元安に誘導したい。さらに輸入制限の対抗措置として、保有する米国債を売却するかもしれない。しかし、米国債を大量売却すれば、ドル売り元買いで急速な元高に動くことになる。

 このように保護主義はブーメランのように当事者に不利益をもたらす。にもかかわらず「わかっちゃいるけどやめられない」のは、国家権力が経済・貿易の領域に介入し、コントロールするためである。米中間に挟まれた多国籍IT企業の間でも「テクノロジー冷戦」が繰り広げられている。

 こういう不安定な時期には投機筋のマネーが激しく動き回り、相場が荒れた展開となりやすい。長期資産保全スタンスの投資家は慌てず、じっくり構えた方が良いです。

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