CLO誕生から早30年、次なる信用収縮は?
もう30年も前の話だ。1989年、筆者はムーディーズのニューヨーク本社ストラクチャードファイナンス部のアナリストとして働いていた。仕組債の格付け部門だ。エール大学ロースクール出身の若きレイ・マクダニエルがこの斬新な部門のヘッドだった。当時、融資返済のキャッシュフローを担保に発行するローン担保証券、CLO(Collateralized Loan Obligation)の格付けが始まり、リンダ・M氏がCLO第一号の格付けを行なった。
リンダは大変有能で、それからしばらくしてムーディーズからシティバンクに転職し、シティの証券化商品の開発に関わった。米国は1991年頃から不況で苦しみ、企業破綻も増えた。この時期、シティやリーマンブラザーズなど名だたる投資銀行は山積した不良債権を証券化し、CLOを発行して大いに儲けたのだ。
このところ、CLOを含むレバレッジド・ローン(leveraged loan)、そして、債券市場全体にリスクが高まっていると、フィナンシャルタイムズ(FT)紙は警戒している(1/22 FT記事 The Debt Machine)。
(注)「レバレッジド・ローン」詳細は以下のサイトをご覧ください。
邦銀が抱える米国レバレッジド・ローンのリスク
レバレッジド・ローン市場の規模は残高1.2兆ドルと、ジャンク債市場よりも拡大している。その理由は、リーマンショック後の超緩和策のおかげで、信用リスクの高い企業へ融資条件の緩い「covenant light (cov-lite)」ローンが増えたためだ。
さらに、レバレッジド・ローンは証券化されCLOに形を変え、変動金利型仕組債として年金など機関投資家に多く購入されてきた。米国ではFRBが利上げを実施し、より高い利回りへの投資家需要が高まったからだ。
ところが、昨年12月に株価が下落し、年明けから世界の景気減速が警戒され、さらに、FRB利上げ打ち止め観測も出てきた。投資家にとっては、変動金利の旨味がなくなり、景気悪化で財務基盤の弱い企業で信用リスクが高まり、レバレッジド・ローン価格も下落。リスクオフで株やジャンク債が売られ、レバレッジド・ローンCLOも売りが重なると、信用収縮が加速するリスクが高まる。
このパターンは、サブプライムローンの劣化で起きたサブプライム・ショックと類似している。サブプライムは信用度の低い個人向け住宅ローンだ。住宅ローンでの信用不安は仕組証券を通して金融市場全体に広まり、リーマンショックの導火線となった。今回のレバレッジド・ローンは企業融資であるから、企業金融に影響する。特に成長性は高いが財務基盤の弱い発展途上の中小企業に貸し倒れや破綻が発生するだろう。
そして、レバレッジド・ローンの出し手である銀行、プライベートエクイティ・ファンドも不良債権を抱えることになるだろう。レバレッジド・ローンCLOの投資家(年金やアセットマネジャー)もまた損失を被ることになる。邦銀もレバレッジド・ローンCLOにかなり投資している。
信用収縮の連鎖反応が世界に広がり、グローバルな規模で売りが売りを呼び、「世界同時株安+債券安」となるだろう。総じて、金融市場全体が巻き込まれ、機能不全となる金融危機。この点もリーマンショックと類似している。
ムーディーズに話を戻すと、その後、マクダニエル氏は証券化商品の拡大の波に乗り、社内の稼ぎ頭となり、社長に上り詰めた。しかし、リーマンショックで最高格付けの仕組債が破綻したことで、ムーディーズは金融危機の元を作ったと非難をされた。リーマンショック後、マクダニエル氏は議会の公聴会の席で、「なぜ嘘の格付けをしたのか」と問い詰められた。
CLO誕生の場に居合わせた筆者から見ると「あれから30年、歴史は繰り返すのか」という思いにかられる。リンダやマクダニエル氏も同じような思いだろうか・・・
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