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国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

北朝鮮のプレゼントとは?

 米中冷戦の最中、北朝鮮が米国にクリスマスプレゼントを送ると豪語している。多くの報道では、長距離多頭核弾道ミサイルらしい。なぜ、この時期に?

 私が2016年10月ビジネス社より出版した『円消滅』の前書きを以下、そのまま本文を引用する。下線は強調するために付け加えた。


 「円が消滅するかもしれない」、この危機感に突き動かされて、本書を緊急出版することになった。

 日頃私が接する経営者のなかには、「日本国債が紙くずになる、戦後のデノミがやってくる」と懸念する人もいるが、その誰もが円消滅、円という通貨を発行する日本銀行(日銀)や日本政府の存在すら脅かされるであろう非常事態までは想定していない。

 国際金融の現場に長年身を置いてきた私は、リーマンショック後、「国家金融資本主義」がニューノーマルとなり、国際金融と安全保障とのさらなる一体化が進む実相を伝えてきた一人である。

 なぜ、こうした動きが顕著なのか。それは、戦後の世界秩序である「戦後レジーム」が終了し、大きな地殻変動、パラダイムシフトが世界で起こっているからにほかならない。当然、日本もその動きのなかに取り込まれている。

 日本は1941年に太平洋戦争に突入し、45年に無条件降伏、そして、マッカーサー率いる米軍に占領された。50年から始まった朝鮮動乱では幸運にも「朝鮮特需」の利益を得て、日本は高度成長へと歩み始めた。以後、米国の核の傘の下で、日本は米ソ冷戦下、世界の戦火に巻き込まれることなく、平和と繁栄を謳歌してきた。振り返れば、日本の戦後の歩み自体がまさに奇跡そのものだったのだ。

 いま、日本の平和と繁栄を築いた世界の戦後レジーム(体制)が大きく変わろうとしている。私は、昨年『この国を縛り続ける金融・戦争・契約』(片桐勇治氏との共著)のなかで、2013年4月27日に「戦後レジーム」が終了し、日本が従属から解放され独立したと記した。

「歴史は繰り返す」と言われるが、まったく同じようには繰り返さないものである。目下、日本は北朝鮮の核の脅威に晒されている。北朝鮮の狙いは米国だが、米国に向けて発射される核ミサイルは秋田や青森県あたりを通過する。仮に青森の三沢基地に着弾した場合、北朝鮮は「誤って発射した」と言い訳するかもしれない。しかし、日本は被爆し、米国と北朝鮮との戦闘の犠牲になる。

 かつての朝鮮動乱では、多くの米国人と朝鮮半島の人々が犠牲になった。日本はいわば「漁夫の利」を得たわけだが、今度はそうはいかない。日本が犠牲になる可能性は否定できない。日本の現在の安全保障の状況を考えれば、敗戦の焼け野原の状態まで引き戻される危機を覚悟すべきなのである。


 もし、日本にもう一度焼け野原から立ち上がるチャンスが来れば、一体どのような国づくりをするだろうか。2020年には世界秩序が大きく変わり始める。逆説的に言えば、日本が自らの実態を見直し、21世紀に生き残る戦略を立てる動機付けこそ、北朝鮮からのプレゼンとも言えそうだ。そうでもしなければ日本は永久に変わろうとしない。

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