グローバルストリームニュース
国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

FTXは詐欺なのか、陰謀なのか? 仮想通貨市場で大規模ポンジスキーム

 「FTX破綻」は、日本のニュースでもこの世界で2番目に大きな仮想通貨取引所で投資をしていた個人投資家が出金できないといった厳しい現実が報道されています。

 米国では、11月11日にコインデスク(ネット情報誌)が、タックスヘイブンのバハマ諸島に拠点を置くFTX関係者から「顧客(投資家)のカネを持ち出している」という内部告発をすっぱ抜き、同日のウォールストリート紙も「投資家がFTXに投資した100億ドルをその関連会社アルメイダ・リサーチに不正に貸し付けている」と報じました。

参考:The collapse of crypto firm FTX and its superstar founder explained for those who know nothing about crypto ビジネスインサイダー記事(11/12付)

 そもそもFTXとは?これはサム・バンクマン・フリード(通称SBF)が創設した仮想通貨取引所です。彼はMIT(マサチューセッツ工科大学)を卒業し、29歳にして暗号通貨で3兆円の資産を有する大金持ちになりました。

事件の発端

 SBFは、2017年にアルメイダ・リサーチを創設しました。この会社は仮想通貨を取引するクウォンツ系ヘッジファンドです。アルメイダはビットコインを米国で買い、それを日本で売り、アービトラージ(裁定取引)で10%も稼いでいたようです。当初は、SBFが自己資金で一日に200ドルのペースで日本の投資家に売っていたのですが、3ヶ月後にその取引量が一日1千万ドル(約14億円)にも膨らみました。彼の編み出した取引はそれだけ莫大な利益があったようです。

 ちなみに、日本でどうやって商いしたのか?「FTXジャパン」が2017年9月に金融庁(関東財務局)に暗号資産交換業者として登録していることから、この辺りでは合法的に儲けていたと言えそうです。

 そして、2019年に、仮想通貨取引所「FTX USA」を設立、「FTX.com」をバハマに設立しました。FTXはトークン(FTT: FTX Token)を発行し、世界中の投資家からの資金を集めました。

SBFのスゴい人脈:スタンフォード、MIT、民主党

 ここまでの話は、ゲームの得意な若者が仮想通貨取引で儲けるというだけですが、この先に、SBFの特殊な人脈が関わってきます。私は以前からヘッジファンドやプライベートエクイティといったオルタナティブ投資の仕事をしてきましたが、こうした新しい投資運用分野には必ず「インナーサークル」の人脈とその資金が関わっています。「人と人が信用で繋がり、マネーはそうした人脈の上を流れる」、これが鉄則です。

 SBFの両親はスタンフォード大学ロースクール教授で弁護士、ともに熱心な民主党支持者です。母親のリンダ・フリードはハーバード大卒で、民主党候補者のために多くの資金集めキャンペーンを展開しています。スタンフォード大学といえばベンチャーキャピタルが密集するシリコンバレー。ここでセコイア・キャピタルなど一流のベンチャーキャピタルからも支持を得ます。

 そして、SBFのガールフレンド、キャロライン・エリスはアルメイダ・リサーチのCEOを務め、彼女の父親はMITの経済学部長です。MITではゲンスナー現SEC(証券取引委員会)委員長がビジネススクールで教えていたことがあります。このように、SBFの両親、友人、名門大学関係者、そして、民主党政権の人脈ががっちり繋がっていることがわかります。

 以上のように、一人の若造の仮想通貨取引での成功は、すぐに彼の両親や友人、大学関係者、民主党と、瞬く間に政官学のインナーサークルに広まり、多額の資金を引きつけることになったと想像できます。

転落の始まり

 このように、ほんの1週間前までSBFはサクセスストーリーの主人公でした。しかし目下、FTX USAは破産し、米国で連邦破産法(チャプターイレブン)の適用を受け、これから破産裁判所で手続きに入ります。バハマに拠点を置くFTX.comもバハマ当局の調査を受けています。バハマのSBFの豪邸(4000万ドル)は売りに出ているようです。

 実はFTXについて「もしかしたら、ヤバいのでは」という懸念は以前からありました。今年6月に仮想通貨のルナ、テラ、そしてそのプラットフォームのセルシウス、ボエジャーが破綻し、仮想通貨専門のベンチャーキャピタル、スリーアロー・キャピタルも破綻しました。この頃からFTXにも暗雲が差しかかっていたと思われます。しかし、アルメイダ・リサーチがこの破綻した二社を買収し、事なきを得ました。SBFはFTXとアルメイダを所有し、FTXはFTTを発行し、そのトークンを担保に50億ドルをアルメイダに貸し付けました。まさにFTXの投資家の資金を運用に回さずに、私的にアルメイダに貸し付けたのですから、投資家から見れば「詐欺」です。

 FTX破綻には明らかな詐欺、「ポンジスキーム」(ねずみ講)が指摘されています。投資家から運用目的で資金を集め、その資金を自分達のポケットに入れて、私的に流用する、運用の実態が無いのに投資家には虚偽の運用報告をし続け、さらに多くの投資家から資金を集め続けるという古典的な犯罪です。

 私が実際に「ポンジスキーム」を経験したのは、2008年リーマンショックの直後に起こったマドフ事件です。バーナード・マドフは元ナスダックの会長で慈善事業に多くの献金をするなどユダヤ人社会では著名人でした。当時、私が勤めていたスイスのヘッジファンド運用会社は、マドフが運用するファンドに投資していました。2007年にサブプライムショックが起こり、不安を感じた投資家がマドフに資金の償還を求めたのです。その直後にリーマンショックが重なり、投資家が資金の償還を求めて殺到する中、マドフのファンド自体が30年近くも運用実態がないことがバレてしまったのです。捏造された運用益は650億ドルにのぼると言われました。マドフ氏には最高刑である150年の禁固刑が下り、彼は刑期中の2021年に死亡しました。

 2011年にも、MFグローバルが投資家の資金を溶かしていたことがバレました。この運用会社のCEO、コーザインは元ゴールドマンサックスの共同会長でニュージャージー州の知事を務めた著名人でした。

 このように、社会的な地位や名誉のある有名人が運用するファンドで「ポンジスキーム」が横行するケースがあります。しかし、今回のFTX破綻は、SBFとガールフレンド、その仲間のわずか10人ほどの若者集団が、仮想通貨という新しい領域で、古典的な金融詐欺を起こした、ここが特異な点です。

バイデン政権、ホワイトハウス、ウクライナ

 特異な点はまだ続きます。SBFを取り巻くインナーサークルに加えて、彼はジョージソロスに次いで、2番目に大きな民主党への献金者だった、しかも、中間選挙前にバイデンに4000万ドル(56億円)もの巨額の献金をしていた(ソロスは1.28億ドルで、SBFの約3倍)のです。

 SBFが他の仮想通貨におけるアントレプレナーと際立って異なっていたのが、この政治的な活動と巨額の献金です。そして、民主党への献金には、ウクライナが深く関係しています。2月24日にロシアによるウクライナ侵攻が開始してすぐに、3月にウクライナ政府は「仮想通貨による献金サイト Crypto donations website」を立ち上げました。世界中からFTXも含む、仮想通貨で資金を募り、それをウクライナ中央銀行が弾薬や必需品の調達に使うのです。

 また、SBFが4月、5月に頻繁にホワイトハウスを訪問していたことも明らかになっています。このように、SBFがバイデン政権と密着し、SECといった規制当局や様々な政治家に影響力を及ぼそうとしていたことがわかります。

 さらに、バイデン政権はウクライナに多額の援助金を支出しています。すでに2.5兆円に達しています。こうした支援金は米国民の税金からまかなわれます。が、いったんウクライナに渡り、そこからさらにFTXでマネー洗浄して、民主党内の特定の政治家に献金されているかもしれない・・・

参考記事:Relationship Among FTX, Ukraine, and Democrats Sparks Speculation エポックタイムズ(11/15付)

破産手続きから見えてくること

 以上のように、SBFの仮想通貨取引所はホワイトハウス、ウクライナと政治と戦争に繋がっていくカネの流れであること、さらに、MIT人脈でSECといった規制当局までをも巻き込むかもしれない、といった可能性があることが見えてきました。まさにインナーサークルの陰謀が暴かれるのか?

 FTX USAは、11月11日に破産申請し、今後は破産法手続きに従い、裁判所が管理する流れになってきます。米国の連邦破産法、「チャプターイレブン」は公正で明確なルールがあります。例えば、破綻申請し、破産法適用になると、資産は裁判所に差し押さえられて凍結されます。申請日から90日前までの取引に遡り、不正な資産の移転がなかったかなど、厳重にチェックされます。資産の債権処理は、優先順位の高い債権者から秩序立って支払われます。

 今後どうなるか?・・・司法の裁きを待つことになりそうです。

金融業界にとっては信用失墜

 FTX破綻はどんな意味があるか?一言で言うと、「信用失墜」です。金融業は「信用創造」から始まります。「創造」とは無から有を作り出すことで、目に見えない「信用」がマネーという実態を生み出すところからスタートします。

 SBFの責任は非常に重いです。彼は、FTX投資家の信用を裏切りました。投資家の中には日本人も含む百万人強の世界の個人投資家の他に、名だたる機関投資家がいます。ブラックストーン、ヘッジファンド大手のタイガー・グローバル、ソフトバンク、そして、シリコンバレーで有名なベンチャーキャピタル(VC)、セコイア・キャピタルです。彼らはFTXに投資したことで、彼ら自身の信用を傷つけられました。 

 しかし、機関投資家がFTXに投資したのは彼らの運用額のわずかなパーセンテージです。例えば、セコイアは総資産850億ドルのうち2000万ドルをFTXに投資していただけで、すでにゼロになったとして償却済みです。問題は、大きな損害を被った個人投資家で、中には大半の資産をFTXに投資し、失ってしまった人もいます。

 加えて、仮想通貨取引という新しい金融の領域で活躍する人たちに対し、SBFは信用失墜という多大な損害を与えました。仮想通貨取引はそれを必要とする投資家がいる限り、自由な領域として正しく発展させたいと考える人たちが大勢います。彼らは事業家として日々努力し、業界を盛り上げようと頑張っています。そうした専門家集団にとってSBFは自分だけが先走り、仮想通貨という新しい業界の信用を失墜させた敵対すべき人物なのです。

グローバリストの罠か?

 SBFの一件の後、こうした私的な仮想通貨取引所が政府の規制を受け、監督下に置かれるようになると予想されます。つまり、今まで自由な領域だったところに規制が入り、世界統一デジタル通貨を目指すグローバリストの思う壺ではないのか・・・これが私の心配です。

 また、11月8日の中間選挙で共和党が圧勝できなかった理由として、SBFの多額の献金が民主党候補を支えた点を指摘する人もいます。まさに、選挙はカネ次第。そして、SBFも用済みになったのか、11月11日には破産手続きに入っています。

 この不可思議な状況がいつまで続くのか?幸いなことに、FTX破綻が株式相場に何か影響を与えているのかというと、今のところはそうした気配もないようです。インフレ懸念が少し遠ざかったことで、打ち消されているのかもしれません。

 

しかし、このような大掛かりな詐欺事件の後、司法当局が調査を進めていく中で多くの政治的な関係者の自殺など、とても悲しい事件が起こります。かつてのエンロン・ワールドコム不正会計疑惑事件やマドフ事件でもそうでした。また似たような破綻や事件が起こらないように願うばかりです。

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