グローバルストリームニュース
国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

FTX破綻から学ぶこと 仮想通貨市場の破綻はリーマンショックにつながるのか?

感謝祭にFTX破綻に思いを馳せる

 米国では24日木曜が感謝祭(Thanksgiving)で休日です。1620年にメイフラワー号で米国にたどり着いた清教徒ピルグリム・ファーザーズが、新大陸での収穫を神に感謝したことから始まったとされています。

 その清教徒(ピューリタン)のモットー、「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」が21世紀には失われてしまうのではないか。感謝祭翌日の「ブラックフライデー」はクリスマス商戦のスタートで、消費の快楽のためにはクレジットカードで借金までしてしまう昨今の米国人には、勤勉、節約は死語になったかのようです。

 さらに前号でもお伝えしたFTXの前代未聞の巨額詐欺、しかも主犯者は若干30歳のSBF(サム・バンクマン・フリード)とその家族や元ガールフレンドや仲間といった取り巻きたちの様相は、まさにピューリタンの真逆です。

 今回はFTXのその後と仮想通貨市場で続く他社の破綻についてお伝えし、既存の実体的な金融システムに影響があるのか、最悪の場合、リーマンショックのような金融危機を引き起こすリスクがあるのかについて、お伝えします。

FTXその後の状況

 FTXは11月11日に破産申請し、SBFの後ジョン・レイ氏がFTXのCEOとして破産後の債権処理の陣頭指揮をとることになりました。レイ氏は、2001年12月に不正会計疑惑で倒産したエンロンのCEOで、当時過去最大の倒産と言われたエンロンの破産処理を実施した人物です。彼は破産処理後の2004-09年、エンロン更生中にCEOとして活躍し、いわば、破産法、債権処理の第一人者として信用が厚く著名な人物です。

 レイ氏の指導のもと、エンロン債権者へは8億2890万ドル(約1000億円)を返済されました。これは貸付けた一ドルに対して52セントが返済されたことを意味します。

 ちなみに、会社が破産した場合、裁判所が資産を差し押さえ、債券、優先株、普通株の順序で、返済されます。債券保有者(ボンドホールダー)の中では、優先順位の高い順に秩序だって返済され、劣後債への支払いは後回しになります。

 そのレイ氏がFTXについて「こんなヒドい破綻は見たことがない」と言ったと報じられました。FTXの元CEO、SBFが150億ドル(約2.1兆円)溶かしているようだし、バハマにあるFTX.com も差し押さえられ、バハマの破産法で資産が清算中ですが、その額も160億ドル(2.2兆円)と推定されています。FTXには資産が残存している可能性はないとみられます。

 一体全体、投資家から集めた巨額の資金はどこへ流れたのか?何に使われたのか? そうした事実解明は、連邦破産裁判所での公聴会や調査が進むにつれ見えてきます。

 注目はSBFの際立った政治活動です。前号でもお伝えしたように民主党への巨額献金、ホワイトハウスを何度か訪問し、政策担当者へのアクセスし、ウクライナ、ゼレンスキー大統領へコンタクトしたこともわかってきています。また、SBFがグローバリストの集会と揶揄されるダボス会議「世界経済フォーラム」でチャリティを呼びかけるなどの活躍もあります。

 しかも、タイミングがすごい。FTXがヤバい!という記事はコインデスク紙が11月2日に報じており、多くの関係者は事態のヤバさに気づいていました。しかし、この期間は11月8日の中間選挙直前で、民主党が最も選挙資金を必要としていた時です。実際、選挙前の1週間で多くの民主党候補者は献金を受け取ったようで、その資金の大きさがトランプ支持者を上回り、民主党議席獲得に貢献したと言われています。そして、FTXが破産申請したのが選挙後の11月11日でした。

 このように、FTXは単なる仮想通貨取引所の破綻の一件では終わらず、民主党、ウクライナ、戦争といった大きなカネの流れにつながってきます。事件解明の過程では、一連のスキャンダルや資金洗浄といった犯罪に発展する可能性もあると思います。

FTX同業他社も危ない

 FTXに次いでジェネシスやコインベースも破綻するかと不安が広がっています。特にコインベースは大手で、実体的な金融システムとの接点があります。コインベースは、2012年に銀行振込でビットコインの売買取引を開始しました。日本では、2021年に三菱UFJ銀行と提携して、投資家は既存の銀行預金口座から仮想通貨に投資できるようになっていました。

 一方で、コインベースは投資家からの預金を担保に資金を借り入れていたことが分かってきています。仮にコインベースが破綻すると、預金者の資金はどう保護されるか?預金者のカネは分別された勘定で管理されているのか?

 既存の銀行や証券では、投資家保護が徹底しています。預金者や投資家からの資金は厳重に分別されて管理されます。そうでなければ金融システムの信用がどうやって保たれるのでしょうか?「信用創造」こそが金融の基本です。仮想通貨市場ではこの基本を失い信用失墜し、今や信用崩壊の過程にあると言えます。

リーマンショックのような破綻の波が来るか?

 リーマンショックを振り返りますと、2003年後半からの住宅バブルに乗って信用力の低い人々にも住宅販売を率先してきた住宅ローン専門会社(モーゲージ会社)が、2006年以降住宅ローンが払えない人が急増し、破綻していく事態が目立ってきました。これは、FRBが2004年6月から2006年まで5月までに0.25%ずつ連続16回もの利上げを実施し、ローン金利が高どまったためです。

 さらに、2007年夏にはサブプライムショックが起こり、銀行や証券市場にも信用不安が広がりました。当時の金融市場では、住宅ローンを証券化した金融商品(MBS、CLO)や派生商品のCDS(クレジットデフォルト・スワップ)といった複雑なデリバティブが活発に取引され、そうした商品は世界中の投資家に保有されていました。世界中の投資家が信用リスク時限爆弾カードというババ抜きゲームに参加していたかのようです。

 そして、ついにババを掴んだベアスターンズのヘッジファンド2本が2008年5月に破綻し、証券化商品のリスクは一気に金融市場に波及しました。この時は、JPモルガンにベアスターンズを吸収し、なんとか事態を抑え込みました。

 しかし、2008年9月にリーマンブラザーズが破綻した時にはすでに救済策はなく、モーゲージ商品を中心に世界にばら撒かれた取引のネットワークが機能不全に陥りました。まさに、信用崩壊、取引不能、価格がつかない、証券取引所も数日封鎖されるという最悪の事態となりました。日本でも農林中金などCLOに多く投資していた銀行や機関投資家は巨額損失を被りました。

 リーマンを発端とした金融危機は、世界に大不況をばら撒いたのです。

 FTXや同業他社の仮想通貨取引所の破綻は、リーマンショックのような信用リスクにつながっていくのか?ポイントは、既存の金融システムの銀行がどのように仮想通貨取引所に関わっているかによると思います。

 そもそもこうした仮想通貨市場は、金融緩和でジャブジャブとなった資金が投機先を求めてバブル状態になったと言えます。バブル崩壊で、既存の銀行が破綻の影響を受けなければ、現行の信用システムは維持されると考えられます。つまり、リーマンショック時のように銀行が次々と破綻の波を被るような現象はないと思われます。

 例えば、エンロンが破綻したときも株式相場の下落や景気後退はありました。が、信用市場の逼迫や金融危機に至ることはありませんでした。

個人投資家として注意すべき点

 世界情勢が不安定な時、メディアは情報を売ろうと活気づきます。弱気相場では投機ブームが起こりやすい、詐欺も横行します。まずは、「安全第一」で資産防衛したいものです。仮想通貨は儲かりそうですが、いつ投資を回収できるのか決済機能も含め不安が残ります。

 次に、「流動性」に注意しましょう。いざとなったときに現金をすぐに回収できるのかどうかも重要です。その上で適正な「実質リターン」を求めます。実質リターンとは、インフレ率と金融商品の手数料を差し引いた数字です。日本でも物価上昇率が3.6%なので、実質リターンが目減りすることを考え、手数料の高い投資商品は避けるべきです。

 最後に、メディアに惑わされず、自分の資産形成を絶対値で考えましょう。つまり、取得価値から何%でいくら増えているのかに集中すべきで、株が上がった下がったと言った一般情報で感情を支配されたり、「〇〇さんがこんなに儲けている」というように他人と比べたりしないように心がけましょう。

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