グローバルストリームニュース
国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

デットシーリング(債務上限問題)、あり得ない米国デフォルト、歳出削減となれば、ウクライナ戦争も終わるのか?

 このところ米国の債務上限問題がニュースのヘッドラインを賑わせています。米国では予算が通過しても、政府が国債発行などで債務を積み上げる枠には制限があります。公的債務が法定上限に達すると、政府はそれ以上の借金ができません。議会の承認を得て限度額を引き上げなければなりません。それができない場合には、資金調達ができずに定義上、米国債は債務不履行(デフォルト)に陥ります。

 米国債がデフォルトとなれば、一大事。投資家にとっては金利の支払いが無く、元本も戻ってこないことになります。発行体である米国の信用は地に落ち、世界中の投資家がパニックに陥り、信用市場が崩壊しかねません。

 経済、軍事、金融あらゆる分野で世界の覇権を握っている米国がデフォルトするはずはないと誰もが考えます。しかし、2011年8月2日、オバマ政権下で、この債務上限引き上げに関する法案が議会で可決するかしないかの瀬戸際まで行きました。テクニカルなデフォルトまであと一歩というギリギリのところで法案が成立し、事なきを得たのです。

 議会での折衝が難航したために、信用不安が高まり、同年8月5日には信用格付け会社S&Pが、米国債を最高格付けのAAAから1段階下げ、AA+に格下げしました。この前代未聞の格下げは、世界の為替、債券市場に大きなマイナス影響を与えました。

 このように、米国デフォルトは誰の利益にもならず、国民を含め世界の投資家に損失が及びます。常識的に考えれば、政府はデフォルトを未然に防ぐはずです。誰もが「〇〇政権の時にデフォルトした」という汚名を歴史に残したくないでしょうから。ところが、この2月あたりから、米国財務長官自らが議会に対して「早ければ6月には国庫の資金が尽きて金が回らなくなる、このままではデフォルトする、上限額を撤廃しろ」と警告し、最近ではメディアに露出し、声を上げています。

こうしたイエレン財務長官の言動については、2月の私の動画でもお伝えしました。

 さて、ここからが政治家にとっては「ショータイム」です。連日メディアが報道する「デットシーリング」問題で特に注目され、目立つ良い機会です。では過去を振り返るとどうだったかというと、先に述べたオバマ政権の時にこの問題が「劇場化」する前には、財務長官自らが露出し、また、メディアが大きく騒ぎたてることは無かったように思います。

 これまで79回の「上限額引き上げ」がありました。下のグラフは、その時の政権を色分け(民主党(青)、共和党(赤))してあります。また、上院(Senate)と下院(House of Representatives)でどちらの党が多数を占めていたかも示しています。グレーの縦のシャドーの部分は債務上限が先送りされた時期を示しています。直近では、コロナ禍、そしてトランプ政権では2年間、債務上限問題を棚上げにしました。

 このように、債務上限問題は民主党だからといって起こるわけではなく、レーガン大統領の時には、18回も上限額が引き上げられました。その後のクリントン政権ではIT革命が起こり、米国は好景気に沸き、債務が増えるどころか減るほどの歳入が増えたのです。しかし、その後のブッシュ(子)政権下では2001年に世界同時多発テロが起こり、米国は戦時体制下に入っていき、軍事費増加などで債務は増え始めます。

 そして、米国の公的債務は、2008年リーマンショックとその直後に成立したオバマ政権を機に、かなり急速に拡大し始めます。デットシーリングもその上限額が引き上げられていきました。そこで、議会も問題の重大性を認識し、2011年には「劇場化したデットシーリング」とニュースになり、同様の問題は13年、15年と続きました。2013年には、当時のバーナンキFRB議長が「財政の崖」と発言し、話題になりました。この時期と同じような流れが、今回バイデン政権でも繰り返されているという感じがします。

 さて、6月までに上限額を引き上げて、デフォルトを防ぐには、5月に米国議会関係者及びホワイトハウス関係者全員がワシントンDCに結集して債務上限問題を議論しなくてはならず、それが可能な日にちがあと数日と限られています。結論から言うと、2011年と同様、ギリギリのところでデフォルトを回避するとみられます。

 しかし、もしタイミングが悪く、期限に間に合わない場合には、テクニカルなデフォルトも起こり得ます。その時には一瞬、米国債券が売られて長期金利が上昇する場面があるかもしれません。しかし、資金の流れが正常化すればすぐに元通りになり、長期金利も今の3.5%程度に戻ると予想されます。このため、ヘッジファンドや投機筋は、短期的な空売りを仕掛けたり、あるいは買い戻したりと、バタバタのトレーディングを行うとみられ、とても一般投資家が入っていけるような相場状況ではなくなると思います。

 そして、これから民主党と共和党が歳出削減に向けて交渉に入ります。どの予算をどのくらい削減するのか?仮にウクライナ戦争への歳出費が削減されれば、米国からウクライナへの武器弾薬はなくなり、戦争も終結に向けて動き始めるかもしれません。

ヘッジファンドニュースレター

コメントは締め切りました。