グローバルストリームニュース
国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

日本のXデー、どうする日本人?

米国、Xデーを回避

 イエレン米財務長官は6月5日には公的債務が法定上限に達し、連邦政府の必要経費を払えなくなると議会に警告をしてきました。この「Xデー」をめぐり、5月末に米議会では民主・共和党両党が交渉を続け、結果、債務上限は2025年1月1日まで引き上げられることになりました。問題先送りです。しかも、2024年11月の大統領選挙まで、バイデン政権は公的債務を増やすことができるので、バイデン再選に有利になります。

日本のXデーは?

 さて、日本でも債務上限問題はあるのか?日本ではGDP比で政府債務が263%と先進国の中ではダントツです。稼ぐ力よりも借金が積み重なり、国債の満期が来ると借り換えのために新規国債を発行していくという自転車操業の状態です。

 それでも国民が安全に平和に暮らせて、経済がそこそこ回っていれば、政財界も当たらず障らず、前例踏襲主義の官僚統制経済下、誰も責任を取ることなく、物事が進んでいくといった感じです。これが「失われた30年」の実態かもしれません。

 日本には議会で決められた「債務上限」が存在しないので、Xデーはないといえます。しかし、日銀が巨額のETFを保有する今、株価下落で日銀が債務超過となり、破綻するのではないかという論調もあります。注目は、4月に就任した植田総裁の手腕です。

植田日銀総裁の発言に注目

 6月1日の私のYouTube動画では、植田日銀総裁の発言を取り上げました。目下、日本でも賃金上昇率を上回る勢いで物価が上昇しています。5月31日の日銀・金融研究所が主催する国際コンファレンスで、植田総裁は「リーマンショック以降続いてきた超低金利環境とは異なる新しい常態に移行する可能性」を示唆しました。

 では「新常態」とは何か?おそらく、コロナ後の経済では、ゼロ金利も戻らず、3-4%の金利レベルでも世界の経済が成長していくというイメージを私は持っています。では、金利も経済成長も共に上昇できるのか?実は、日本の戦後の高度成長期には、金利上昇を伴いつつ成長が続きました。コロナ後に世界秩序が大きく変わる中、日本が再び成長していくにはどうしたら良いのか?アベノミクスは終わりましたが、「成長戦略」は喫緊の課題です。

 一方、私の動画のコメント欄には「日本が将来良くなっていくようには感じられない」という意見が寄せられました。おそらく、多くの国民はバブル崩壊後の「失われた30年」で少子化や超高齢社会の出現、所得格差の拡大、相対的な国力の低下と言った否定的な側面から、「日本はもうダメだ」と気落ちしているのかもしれません。マスメディアが自虐的な報道をするので、その影響をまともに受けて悲観的で弱気になっているのかもしれません。

 確かに、前例踏襲主義の官僚統制経済には制度疲労と途轍もない行き詰まり感があります。しかし、私のように明治生まれの祖母と昭和一桁生まれの母と暮らした女性の立場から見ると、今の日本社会では女性にとっては昔よりも幅広い選択肢があるし、時代は進んでマシになっていると実感します。見方を変えれば、以前よりもずっと良くなっている面も評価すべきです。もちろん、将来改善すべき点はたくさんありますが。

コロナ後の「新常態」、成長戦略は?

 さて、今後の成長戦略についてですが、戦後の成長の原動力となったのは製造業でした。製造業は付加価値が高く、乗数効果が高い。例えば、住宅産業や自動車産業は裾野が広く、その生産活動は様々な関連部品メーカーに波及します。しかし、現在では製造業が経済全体に占める割合は2-3割で、乗数効果がそれほど高くないサービスセクターが7-8割を占めています。ではどのような成長の道筋があるのか?

 日本のこれからの成長分野は農業を含む一次産業の工業化だと私は考えています。今の安全保障の点からも、ライフライン(食糧、水、エネルギー)確保のために自給率を上げなければなりません。非常時に備え、各地で自給可能に適正なサイズの地域内で効率的なライフライン供給網とロジの整備を急ぐべきです。国や政府に頼らず、地元で民間の力でなんとか一次産業から二次産業、三次産業と地域ごとに経済連関させなければなりません。

 具体的には、地域のダムを掃除し、水源と農作地を確保するなど、セクター別ではなく、地域ごとの括りで経済連関と乗数効果を高める体制を作るべきでしょう。こうした活動に、ITやAIを活用していくと、一層効果が高まります。しかし、そのためには従来の縦割り行政と岩盤規制を乗り越えていかなければなりません。

 例えば、米国のIT革命後に成長してきた企業ではフラットな経営組織、社員の独創性を評価し、財務や様々な管理部門で生産性を高めるために効率的にITをツールとして活用してきました。この点が、実は日本の硬直化した経営組織ではネックになっています。ITによる生産性向上が図れない縦割りの人事になっているためです。本来であれば経営トップの英断で組織改革が進められるはずなのですが、そうした進化の過程が遅れています。

 もし日本が追い詰められて、本当にやる気を出せば、しかも自分達のサバイバルがかかっているとなれば、企業経営と同様、全体の最適化のために構成員が繋がりあい、努力を積み重ねる組織に変わっていくはずです。

フラットな経営基盤、規制緩和と新たな共同体

 最近では、ドル消滅、日銀が破綻、国債が紙屑になる・・・と言った恐怖のシナリオが多く出回っています。確かにそうしたリスクはあるものの、単に金(ゴールド)を買っておけば済む、というわけにはいきません。金ではお腹は膨らみません。むしろ、Xデーが来ようが、北朝鮮から核が飛来しようが、どうしたらサバイバルできるのか、ゼロから考えるべきです。

 もちろん、人は一人だけで生き延びることはできません。お互いに助け合い、支え合える仲間、コミュニティ(共同体)が必要です。そのコミュニティが何なのか、誰がメンバー(構成員)なのか、どのような統治(自治)を行うのか、その組織の生産基盤は何か、生産手段は何か、こうした基本的な枠組みから組み立てが必要です。そうした積極的かつ前向きな思考に基づく実践のプロセスの中で、日本人が自分の力で日本を取り戻し、生き残りを賭けて今後のあるべき姿に向かうには何をすべきかが見えてくると思います。

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