グローバルストリームニュース
国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

トランプ氏有罪判決から見えてくる米国の共産化 “Liberty to do business”無くして米国は無い

 皆さんご存知のように、去る5月30日にニューヨーク州の裁判でトランプ氏に対して有罪判決が出ました。この報道が出てから多くの人々がトランプ支持を表明し、6月2日までに2億ドルもの多額の寄付金が集まっています。

 この辺りの詳しい情報についてはHarano TimesさんがYouTubeで解説されていますので、「トランプ有罪、全米沸騰」や「トランプ裁判の影響」をご覧になってください。

 今、民主党内でもニューヨーク州の裁判のあり方や法を歪曲した司法に対して批判が高まっています。国民が選択した政府が法律までをも武器化して標的にした特定人物を有罪に導くやり方は、”Weaponizing law”あるいは”Lawfare (law + Warfare)”と称されています。政府の政治的な思惑で、恣意的にかつ意図的に特定の前科のない市民を有罪にして牢獄に閉じ込められるとなれば、米国にはもはや「法の支配」はない、第三世界の専制国家と同じだと私は感じています。そして、多くの米国市民は、これは米国憲法に真っ向から背いたやり方だと怒りを強めています。

 米国は、1620年にピューリタンの一行が絶対王政による宗教的迫害を逃れてメイフラワー号で英国から脱出し、プリマスに到着したところから始まります。米国上陸を前に、彼らは「この新世界に神の国を実現する」と誓約を交わします。建国を担ったピルグリム・ファーザーズの子孫たちは今でも名誉ある一族として米国内で脈々と根を張っています。私はそうした一族の人と食事をしたことがあります。この老婦人の祖先はオランダから英国、英国から米国に渡ったピューリタンで、「我々にとって経済的自由(Liberty to do business)が何よりも大事なのだ」とはっきり言われました。

 絶対王政下の重商主義では国王の専制的権力と大貴族の既得権益が経済圏と経済活動を支配していました。16-17世紀に毛織物業で富を蓄えてきた生産者層(その多くがピューリタンだった)には経済的自由がなく、宗教的な理由から迫害されていました。そうした縛りからの解放という意味で、libertyには経済的自由と宗教的寛容(良心の自由)とが重なります。その上で「法の支配」が社会のコモンウェルス(公共の福祉)を実現します。専制君主(王)の恣意的な支配ではなく、王の上位に法を置くという合衆国憲法こそが「法の支配」の基本です。

 もしこのような米国の成り立ちそのものが否定されていったらどうなるだろうか?「トランプは明日の我が身か・・・」と不安と恐怖に駆られる経営者やビジネスマンも多いのです。トランプ氏が不動産事業で成功したように、米国には金融やITなどさまざまな事業で成功して富を築いた人たちがたくさんいます。

私の先週のYouTube動画でも多くの金融界の大物がトランプ支持に動いていると伝えましたが、彼らにとっては、現政府と政策やイデオロギーが異なるという理由で狙い撃ちされ、メディアで中傷され、資産を没収され、事業の基盤を根こそぎにされないだろうか。自分たちの事業がよってたつ資本主義そのものが破壊されれば、自分たちは生き残ることができない・・・

 米国社会も資本主義から「法の支配」をなくそうとする現政権(極左民主党)の恣意的な政策が広がれば、中共のように共産主義独裁権力による支配と同じになっていきます。超大国の米国が共産化すれば、世界で「法の支配」と秩序がなし崩しになります。実に、6月4日に、米財務長官イエレン氏は「ロシア凍結資産(主に米国債)の利子をウクライナ緊急支援に活用する」案を提示し、G7会議で支持を集めると述べています。

6月5日付 ロイターロシア凍結資産の利子活用、米財務長官「かなりの支持」 G7で議論へ

 欧州各国が賛同するかどうかはわかりませんが、ロシアの保有する米国債は一定の契約のもとでロシアが投資した資産であり、それを米国が勝手に横取りするのか?こんなことが罷り通れば、国際金融市場でドルの信用は失われます。米国は自らの手で国富を破壊したいのか?その破壊はドル資産を保有するあらゆる国や投資家に波及するでしょう。足元の富を根こそぎされる恐怖に気づいたウォール街の大物たちはこの動きを止めようと動き出しています。「やられる前にやれ!」、妥協点はあるのか?

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