次期トランプ政権 金融経済を動かす閣僚(続き) ラトニック商務長官候補について そして、世界で「トランプ劇場」開幕
前回はベッセント財務長官候補について皆さんにお伝えしました。今回はハワード・ラトニック商務長官候補について、私の知っていることを肌感覚でお伝えします。(以下敬称略)
ラトニックはカンターフィッツジェラルド証券の会長です。カンターフィッツジェラルド証券は23ある米国政府証券のプライマリー・ディーラーの一社です。このことから、次期財務長官ベッセントとラトニックが共通の基盤の上に立って仲間内の密接なコミュニケーションができると想像します。特にベッセントのミッションは、ドルの覇権通貨としての地位を守り、その通貨発行権を財務省の手に戻すことです。そのためには、米国債(財務省証券)の価値を存続させることが重要であり、JPモルガンを筆頭にプライマリー・ディーラーとの協力も欠かせないのです。
またラトニック率いる商務省にはUSTR(通商代表部)が組み込まれます。次期USTRのトップはロバート・ライトハウザーで、彼は第1次トランプ政権下でも同職を務め、中国強硬派として米中貿易戦争を指揮しました。中国強硬派といえば、ピーター・ナヴァロも1期目のトランプ政権下でホワイトハウス内の国家通商会議のトップとして活躍し、次期政権ではトランプ氏の特別補佐官になります。
さてカンターフィッツジェラルドに話を戻すと、この総合証券会社の本社はマンハッタン南端にそびえる世界貿易センタービル(ツインタワー)の高層階にありました。2001年9月11日世界同時多発テロでアメリカン航空機がまさにこの本社の階に直撃したのです。その日、カンターフィッツジェラルド従業員960人のうち658人の命が失われました。ラトニックの弟さんもその悲劇に巻き込まれました。その日、ラトニック本人は自身の息子を学校に送り届ける用事があって偶然にも難を逃れたのです。
一度に家族も会社も従業員も失い、ラトニックは悲劇のどん底に突き落とされました。そこから立ち上がり会社を再興するまでのストーリーは、ドキュメンタリー映画「Out of the Clear Blue Sky」に著されています。ラトニックがいかにウォール街のなかで再興を果たしたか、その闘魂を誰もが賞賛しています。
(動画切り抜き:https://www.youtube.com/watch?v=XmoAfgSNcPg)
カンターフィッツジェラルドといえば、私には思い出があります。このエピソードは実際にあったことで、2004年に出版した拙著『ウォール街のマネーエリートたち:ヘッジファンドを動かす人びと』のなかで記した「チキンの話」です。
チキンとはあるトレーダーのあだ名で、彼はプエルトリコからの貧しい移民で、1980年代に夜間大学に通いながら証券会社のバックオフィスで働いていました。当時はブルームバーグもインターネットもない時代。株式の膨大な取引の決済処理はバックオフィスが受け持っていました。チキンは朝4時に出社し猛烈な勢いで働きました。彼は明るくて人懐こくて機転がきいたのでトレーダーたちに可愛がられ、バックオフィスからアシスタントトレーダーに昇進し、仕事を覚えていきました。
ある時カンターフィッツジェラルド証券で外国株のトレーダーを募集しているのを仲間が知って、チキンにやってみないかと誘いました。チキンにとってはのしあがるチャンスでした。しばらくして彼はカンターフィッツジェラルド証券で成功し、もはや痩せこけたチキンではなく、太って恰幅の良いトレーダーになっていました。私の友人のトレーダーが「ブロードウェイのショーを見に行った時に劇場でチキンを見かけたよ、奴は羽振が良さそうだな」と話していました。そんな時あの9/11に、チキンは同時多発テロに巻き込まれ亡くなってしまったのです。
かつてのウォール街のトレーディングフロアで働く人たちの中には、チキンのようにデリバリーボーイから身を起こして成功を手にした苦労人がたくさんいました。やっと成功を手に入れた矢先に、9/11のテロが彼らの成果を奪い取ったのです。私も目の前で世界貿易センタービルが崩壊していく様を見ました。あの廃墟の灰の中からカンターフィッツジェラルドもラトニックも蘇った。今から彼は国家の再生のために働こうとしています。
ベッセントもラトニックも、実践を経験したプロです。英語で言う”Skin in the Game”の達人といえます。日本でいう大企業のサラリーマンではなく、自らの力で目標達成のために身銭を切って闘い、リスクをかい潜って成功に至った人間です。当然、根性もあるし、リスク判断に優れています。こういう人たちが官僚組織のトップに立って、政府を動かす時、しかも、組織(政府)のミッションが極めて明確で閣僚間で共有されているので、次期トランプ政権は大変な勢いでパワーを発揮していくと予想されます。
すでに世界は「トランプ2.0」に向けて動き出し、ウクライナ、シリア、韓国といった緩衝国家では現政権の権威が崩れつつあります。ウクライナについては、12月7日にパリでノートルダム大聖堂の再建を祝う式典にトランプが参列し、マクロン大統領が仲介してゼレンスキー大統領を含む三者会談が行われました。今後ウクライナは停戦に向かい、ロシアとの戦後処理をめぐる交渉が始まると見られます。また、この動きに呼応するかのようにロシアはシリアのアサド政権が崩壊するがままにし、手を出すことはありませんでした。
また、韓国ではトランプ仲介よる朝鮮半島統一の動きに向けて、現政権の正当性に対する揺らぎが生じています。こうした韓国における「政治権力の空白」は日米韓の安全保障上、非常に警戒すべき事由です。当然、日本の安全保障にもかかわります。
このように世界の「トランプ劇場」は開幕したばかりです。これから世界秩序が大きく動き、当然、経済金融システムもまた変化の局面に入っていきます。エキサイティングに刻々と変わる情勢について、グローバルストリーム・ニュースと「ヘッジファンド・ニュースレター」(有料)、さらにYouTubeとニコ生(動画)で皆様に本質情報をお届けしていきます。ぜひご購読をお願いいたします!!
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