日銀の異次元緩和は世界にデフレを輸出
先週は日米共に、株価が上昇し、ダウ平均株価は最高値を更新し、日経平均株価は1万5千円台を突破しました。2020年東京オリンピックや消費税増税の決定にあまり反応がなかったのに、なぜここに来て株価がこれほど上昇しているのでしょうか?そして、上昇はいつまで続くのでしょうか?
バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチの11月の調査によると、グローバル・ファンドマネジャーは10月に日本への投資を減らし始めました。FT記事(11月14日付 ”Japan’s loss of sparkle frustrates investors”)では、「これからの投資は日本経済への期待感だけで買うことになる」というファンドマネジャーの意見を紹介しています。
一方で、来年四月の消費税増税で景気冷え込みが予想されることから、日銀の一段の緩和策が見込まれ、米国のQE(量的緩和)よりも激しい緩和策が続くと、円安・ドル高となります。投資家は円安・株高という上昇気流に乗ろうとします。
一方、Absolute Return Research社マネージング・ディレクターDavid Bowers氏は、日銀の異次元緩和は世界にデフレを輸出すると警告しています(FT紙11月14日 ”Monetary shock from Japan eclipses Fed taper concerns)。
1980年代の日米貿易摩擦では、日本が米国に対して一方的に失業を輸出すると警告されました。今度は日米QE根比べ、金融緩和摩擦とでもいうか。しかし、その影響は日米二国間に留まりません。
Bowers氏によれば、円安・ドル高は、ドルに対して新興国通貨安をもたらし、ドル高でコモディティの下落、新興国の価格決定力を弱めることから、新興国市場はマイナス影響を与えます。
もうひとつ、重要なポイントは中国です。Bowers氏によれば、この20年日本はデフレ不況に苦しむ間、中国は高度成長を遂げ、世界の工場の地位を確立しました。今、日本がデフレ脱却を果たし、アジア経済圏で新たな資金需要を引き起こせば、中国の改革を遅らせることになります。中国が過去30年で最大級の経済改革を押し進めるのは、日本には絶対リーダーシップを譲れないからです。
日本国内に目を向けると、日銀がJGB(日本国債)を購入して市中に大量のマネーを回す緩和策でインフレが起これば、企業の借入のニーズが増えていくと見込まれます。その一方で、政府の構造改革が進まないため、内部留保を抱えキャッシュリッチな企業は、先行き不安から、思い切った中長期の設備投資に踏み切れないでいます。金融緩和は規制緩和や産業構造の変革と結びつかないと実質的な収益に至らず、賃金上昇もかないません。
さらに、本当に景気が上向き、良い意味でインフレ気味になれば、JGBの価値が下落します。大量のJGBや債券を抱える年金基金や金融機関は資産運用の転換を図る必要に迫られます。