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ギリシャ、ロシア、トルコ、そして「アラブの春」

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 ユーロの危機は欧州の危機である。ギリシャがデフォルトするか否かは、来週火曜(6月28日)に緊縮財政法案がギリシャ議会で採決されるかどうかにかかっている。

 1993年のマースリヒト条約(欧州連合条約)では、加盟国が健全な財政状態を保つために財政赤字に限度を設けている。ユーロは加盟国がこうした約束事をきちっと守ることを前提として成立した。よもや、一国の財政をごまかすようなギリシャは「想定外」だった。

 この危機を独仏の協力で乗り越えることができるのか。おそらく、ギリシャでこの法案が通れば、危機を回避しようとIMF、ECBや加盟国がユーロ防衛に努めるだろう。仮に、ギリシャがデフォルトを免れたとしても、ギリシャ救済に必要な500億ユーロ(約5.7兆円)をどうねん出するかが、特にドイツにとって悩ましい点である。

 さらに、今後ギリシャの財政再建は必須で、資金ねん出のためにも、ギリシャは民営化に向けて動き出すと予想される。ロシアはギリシャの利権を虎視眈々と狙う。そして、ロシアという共通の敵に対して独仏は協力体制を深めるだろう。

 この点について、地政学に詳しいStrategic Forecast(Stratfor)誌の記事(23日付 ”Portfolio: Russia Takes Advantages of the Eurozone Crisis”)が興味深い。ヨーロッパ大陸諸国(特にドイツ)はロシアとせめぎ合ってきた長い歴史がある。2009年のロシア・ウクライナ・ガス紛争では、真冬のさなか、ロシアは欧州へ天然ガスの供給が止めた。ドイツ、ベネルクスなど周辺国にとって、ロシア「資源恫喝外交」の悪夢は再び繰り返したくない。

 ロシアの天然ガス・パイプラインは、ベラルーシからポーランド経由で、そしてウクライナからスロバキア、チェコ経由で独へつながっている。Stratfor誌によれば、ロシアは東欧・中欧経由のルートのほかに、ウクライナからルーマニアとブルガリアを経由しギリシャに入る「南ルート」を確保したい。そのため、ギリシャ国営の天然ガス会社DEPAを手に入れたいと狙っているのだ。

 ギリシャの隣国トルコは、黒海を隔てロシアとつながっている。加えて、シリアとイラクと国境を接し、中東、アラブへとつながっている。シリアの下にはレバノン、ヨルダン、そしてイスラエルがある。

 シリアでは40年続いた独裁政権アサド体制が崩壊寸前で、1万人ものシリア難民をトルコは受け入れている。Stratfor記事(22日付 “Turkey’s Inevitable Problems with Neighbors”)によれば、トルコは外交モットー「近隣諸国と問題を起こさない “Zero problems with neighbors”」のもと、リビアの反カダフィ勢力を支持し、民主化運動「アラブの春」で揺れる独裁的なアラブ諸国に不信を抱かせている。

 シリアの少数派「アラワイト・セクトAlawite」であるアサド政権は、強権を持って多数を占めるスンニ-派を支配してきた。アラワイト派はイランとの関係が深く、トルコはイランとの紛争を避けるために、イラクでは少数派のシーア派(イランが後ろ盾になっている)をスンニ派のカウンターバランスとして利用しようとしている。近い将来、シリアで権力の空位が起こった場合、スンニ派のカムバックに備え、同時にイラン、イラクとの関係悪化を防ぐつもりでいる。

 中東では、スンニ対シーアに加え、レバノンのヒスボラ、パレスチナのイスラム過激派、ガザ地区のハマスなど複数のセクトが絡み合い、利害が複雑である。「中東の春」で、独善的な宗教国家や王政による独裁、そして過激派といった政治体制は淘汰に向かい、中東の人々は寛容の精神と経済的自由、そして繁栄を望むようになるだろう。トルコはその先進国であり、イスラムの世俗政権としてユニークな存在である。

 トルコでは、幸運にもケマル・アタチュルクという優れたリーダーが聖俗分離を果たし、世俗国家の体制を築き、近代化を成し遂げた。イスラム圏にとって、宗教・宗派を超えて世俗権力が成立し、西洋市民革命の基本である「良心の自由」や「言論の自由」を打ち立てることができるかどうか、これがイスラム圏民主化の真のキーである。

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