小室直樹博士と国史
小室直樹博士は昨年9月に逝去された。77歳だった。天才・小室博士は経済学や法社会学、宗教社会学の本質を示し、社会は科学の対象であり、社会変動には客観的な法則があることを教えてくれた。
私は1979年から83年ころまで東大の小室(自主)ゼミに参加した。小室ゼミの存在を知ったのは小室博士の『危機の構造』を読んだ後だった。「急性アノミー」による社会の崩壊現象など、日本社会に対する小室博士の預言は次々と的中し、現実のものとなっている。私たちは預言を知りながら「そこまでひどくはならないだろう」とタカをくくっていた。そんな日本人の危機管理の甘さが統治能力零の自己崩壊を招こうとしている。
当時のメンバーには橋爪大三郎氏(東工大教授)、志田基与師氏(横浜国立大学教授)、落合仁司氏(同志社大学教授)、宮台真司氏など今を代表する社会学者、加えて当時から変わり種だった副島隆彦氏がいた。小室博士の演習はヒックス『価値と資本』の数学から始まり、経済学、統計学を網羅し、次にマックス・ウェーバーの宗教社会学に及んだ。
本日(3月6日)、東工大世界文明センター主催で小室直樹博士記念シンポジウムが開かれた。私はシンポジウムの最後の30分を聞いてから、その後の懇親会に参加した。その席で初めて小室博士の奥様にお目にかかった。懇親会のあいさつで、奥様は語った、「小室が亡くなる二日前にどうしても国史を書きたいと申しておりました。小室はいつもたくさんのアイデアがあって、全部を書いていたらあと50年はかかるだろうと思いました。そこで書きたいことの優先順位をつけるとしたら、何を一番先にしたいですかと小室に聞きました。小室の国史の先生は平泉澄教授でした。」
平泉氏は戦後東大を辞職された、思想も行動も皇国史観バリバリの教授だった。小室博士は米国占領以前の、敗戦によってゆがめられる前の純粋な国史の考え方を社会科学的に分析し、日本を歴史の上から再構築したいと考えたのではないだろうか。
小室博士が健在であれば、我々日本人はどこから来たのか、そしてどこへ行くのか、といった問いに答えを見いだせたかもしれない。グローバル化時代、日本が再び立ち位置を確認し再構築していくためには、小室博士の預言を学び、社会科学の法則を知り、必然に備えなければならない。