北朝鮮核問題は中国のSOS
北朝鮮の核実験が現実味を帯び、米中韓では危機感が高まっている。中国国内で人民解放軍の巻き返しの切り札が核実験と言われており、北朝鮮は中国の権力闘争に巻き込まれている(長谷川慶太郎『中国大分裂』2012年)とみれば、中国共産党政府はこの危機を国際的に注目されることでSOSを発信しているととらえられる。北朝鮮の核弾頭は、米国や日本だけではなく、北京をも直撃するリスクがあるからだ。
昨年ヒラリー・クリントン氏は、ハーバード大学の講演で、中国は宗教や哲学のない統治国家で、拝金主義と利己主義が蔓延り、あと20年で元の貧困国に戻るだろうと一刀両断した。確かに、国土の環境破壊で、国民の健康すら犠牲にする国が繁栄の道をたどれるわけがない。
一般にアジア諸国では軍部が果たす政治的役割が大きい。支配層が植民地時代からの経済的特権を握る一族で占められ、軍だけが下剋上の正常なメカニズムが効く組織となっている。貧しい家庭の子供は軍隊に入って食いつなぐ。その中で極めて優秀な人材が這いあがるケースがある。当初は国民の支持を受けたフィリピンのマルコス大統領のようにこうした人物は独裁制が強い。
人民解放軍についてもそうだが、貧困と労苦をばねにトップに就く軍人は、特権と汚職でまみれた政治支配層に憎しみをいだく。一人っ子政策で中国共産党幹部の子弟は大事に育てられ、ハーバード大学など海外の名門校、すなわち将来の亡命先へ一族の資産とともに送られ、優雅な生活をしている。一方で兵隊になるしか生きる道のない若者。高度経済成長とともに貧富の格差がとめどもなく広がる中国を待ち受けるのがハードランディングとしての「第二の文化大革命」。それをどう避けるのか?共産党支配のメンツを失うことなく、政治的なソフトランディングをどうさせるのか?
中国は米国と戦うつもりはないし、北朝鮮の核を北京にもたらすことも望まない。中国のSOSに米韓・日本できちんと答える必要があるだろう。このあたりで尖閣諸島問題を逆手に取られて、日本が再び核の犠牲にならないよう、巧みな外交を祈るばかりである。