北朝鮮はどうなるか、アジアの不安定化は進むのか
19日正午のNHKニュースで、北朝鮮指導者、金正日の死去が伝えられた。その日は1時半に東京産業人倶楽部のグループで野田首相を表敬訪問する予定だった。車で首相官邸に到着する直前に、私たちとの面談はこの緊急事態でキャンセルになったと知らせが入った。1時前の首相官邸には報道陣や関係者が詰め掛けていた。私は首相官邸をめがけて核ミサイルが飛んでくるのではないかと不安で、なるべく早くその場から離れたかった。官邸周辺の街の様子は驚くほど平常だった。
北朝鮮のリスクがどこまで日本やアジアに及ぶか。それは後ろに控える中国の力によると考えられる。北朝鮮内部で政権交代がスムーズに進まずに軍部を巻き込んだ権力闘争が激化し内部崩壊するような場合、いち早く不測の事態を把握し、制御できるのは中国だろうし、中国もまた習近平を中心とする自国の政権交代を控え、北朝鮮から難民が押し寄せるなどの事態が起こった場合には人民解放軍を介入させ、強いリーダーシップを示す用意があるだろう。
だが、北朝鮮が崩壊した場合、誰が経済の立て直しのコストを引き受けることができるのか。ソ連崩壊後の東西ドイツ統一どころのコストではない。北朝鮮は2009年11月の電撃デノミで、手持ちの貨幣価値が100分の1になった。蓄財に励んできた国民の多くが資産を失った。経済的な困難が続き、国民は疲弊しきっている。朝鮮半島統一の経済的コストを中国がもち切れるだろうか。
もし中国の成長鈍化から国内政治が不安定化し、中国指導層が内政に忙殺され北朝鮮を制御できなければ、朝鮮半島の統一と非核化を平和裏に進めることが難しくなるだろう。中国の影響力低下局面では朝鮮半島統一と北朝鮮の非核化が果たせず、アジア地域で大きな不均衡が生じる。
米国は、イラクやアフガンからの撤退、中東の春、イランとイスラエルの緊張の高まりなど中東地域の仕切り直しで忙しい。米韓で西太平洋地域の安全保障を固めるとしても、今後の朝鮮半島統一のコストを独りで負担する気もないだろう。
TPPや米韓FTA、EPAを通して、将来朝鮮半島統一によって大掛かりなインフラ投資(ライフライン、空港、鉄道、道路など)といった新しい投資機会が生じるだろう。日本でも「朝鮮特需」に沸く可能性もある。そうした見返りを考えれば、21日付けFT(フィナンシャル・タイムズ紙)の記事、何故この時期に日本が中国の国債を買うのか、といった意味も深読みできる。おそらく、米国がそのように日本に望んでいるのだろう。日本は、自らの赤字国債のツケを国民に払わせながらも、中国内政の不安定化を和らげ、間接的に朝鮮半島統一のコストを払わされているのだ。