アルバート・ウォジンローア博士は、かつてニューヨーク連銀でボルカー氏と机を並べたエコノミストです。クレディスイスなど大手投資銀行でエコノミストを歴任し、金利予想では定評があります。現在は、マンハッタンに本社のあるヘッジファンドのアドバイザーをされています。
以下、ウォジンローア博士のレポート、「Calm on the Surface (表面は静か)」(3月14日付)を自分なりに要点をまとめてみました。
- 昨年5月に、バーナンキFRB議長が「テーパリング(量的緩和縮小)開始」に言及したとき、短期金利をほぼゼロに据え置くとしたのにもかかわらず、米国債の利回りが急上昇し、株価も下げました。景気回復は産業界にとって良いニュースなのに、ウォール街にとっては「キャリートレード」を可能にしてきたじゃぶじゃぶの資金供給を終わらせる憂うべきニュースと受け止められました。さらに、過剰信用がインフレを引き起こすという警戒感もでてきました。
- 米国経済は、昨年春先から実質GDPは約2.5%で成長してきました。家計が貯蓄を切り崩してまで支出を増やして達成した成長といえます。しかし、バーナンキのテーパリング発言で、皮肉にも、住宅ローン金利が上昇し、住宅販売や建設がスローダウンし、雇用改善も遅れました。そうした時期、軍事費削減や政府部門の支出抑制、民間では国内でのエネルギー生産の拡大や医療保険の需要拡大が見られ、経済は表面的には静かにスムーズに成長しているように見えます。しかし、その表面下では変化が拡がりつつあります。
- 大きな変化は、世界中で起こっています。日本の消費税増税は成長の懸念材料であり、また、中国では政治変革なしに個人消費や民間需要が牽引する経済資本システムに変革できるのかどうかは甚だ疑問です。同じことが、ロシア、トルコにもあてはまります。南米では、アルゼンチン、ブラジル、ベネズエラ経済の見通しはいっそう暗いです。ドイツと北欧を除いた欧州も、かなりの不景気です。そうした中、世界規模でライフスタイルが大きく変わろうとしています。若いインターネット世代は、より不安定な将来を生きることになります。過去の景気循環は同じように繰り返さないのです。
- FRBに関しても、共和党のバーナンキから民主党のイエレン新議長に交代したといった表面的な変化だけではありません。引き続きテーパリングは今のペースで実行されると予想されますが、景気の弱さを示す指数が単に気候のせいでないとなると、債券利回りは上昇し、株価が下落します。FED内部では緩和か引締めかといった論議が湧き出るでしょう。そして、その調整役を担うのが、世銀、IMF、イスラエル中央銀行で影響力を発揮した大物スタンレー・フィッシャーです。
- 政府の無駄遣いや政治の腐敗によって非効率的な財政支出が止まらないケースもあります。経済成長が持続する限り、民間部門での信用が拡大し、行き過ぎるとやがてバブルが生成されます。こうしたバブル生成と破綻のパターンが繰り返されるのは、人間の欲望や恐怖といった人間性に根づいた要因のためです。