先週一週間も地政学リスクが金融市場を覆った。今後の影響を考え、グローバルマネーは、リスク回避に動いている。
今後の見通し
(1)欧米のロシアに対する経済制裁から、脆弱なユーロ圏経済に追い打ちをかけるような影響が出そう。欧州中央銀行(ECB)はさらなる緩和策に動き、ユーロ安が見込まれる。
(2)さらに、ロシア・リスクから、この一週間、ロシアとの密接な貿易国のノルウェーとスウェーデンの株式からグローバルマネーが流出している。
(3)ロシア関連で原油やガスなど資源をめぐる商品市場にどのような影響があるだろうか。米中間ではアフリカ大陸の資源をめぐる利権を仕切り直す動きが進行中。アンゴラでは原油の利権をめぐりコバルト社(ゴールドマンサックスとリバーストーンが大株主)にSECがanti-corruption(連邦海外腐敗行為防止法)捜査に入っている(FT紙8月6日付)。
(4)日本は円高株安基調に。ヘッジファンドが金利の低い円で借入れ、高金利通貨(豪ドル、NZドル)に投資する円キャリートレード(円キャリ取引)において、この一週間で動きが逆回転している。つまり、円を買い戻し、豪ドル・NZドルを売っている。この動きと同期して日本株と豪株式からグローバルマネーが流出する動きが見られる。
さて、イスラム過激派ISISがイラク全土に勢力拡大を図り、少数民族やキリスト教徒を迫害している。ISISは欧米への攻撃を明言し、シリア、レバノン北部に侵攻、ヨルダン、クウェートへの勢力拡大を狙っている。
振り返れば、2003年3月、「大量破壊兵器」を保有するサダム・フセイン大統領の脅威を取り除くという名目で当時のブッシュ大統領はイラク侵攻を開始した。この時期、米国は2001年の世界同時多発テロの混乱から立ち上がる機会を探していた。そうした混沌とした状況も含めてロシア危機から2007年のサブプライムショック直前までの約10年間のウォール街の様子を、私は『ウォール街のマネーエリートたち』(日本経済出版社)にまとめ、2004年に出版した。
あれからさらに10年がたって、イラクはよくなったのか?米国はフセインを殺害し、米国の息のかかったマーリキー政権を建て、イラクの国づくりを進めた。そして、2011年12月に米軍はイラクから完全撤退。その後の祭りがイラク国家の大分裂である。
8月9日、オバマ大統領は人道的支援からイラク北部に空爆を開始した。米軍のコミットメントは限定的と報道されている。地上部隊投入無しでは、米軍の介入も中途半端で終わるだろう。その結果、中間選挙を控えたオバマ大統領にとって致命的となりそうだ。今の米国には厭戦ムードが拡がっている。国民は海外での戦争よりも目の前の景気が良くなってほしいと思っているのだ。
じっさいに、過去5年間で米国経済は疲弊している。政府はリーマンショック(2008年9月16日)後に財政拡大や三度にわたる量的緩和(QE)、そして超低金利などカンフル剤を打ってきたが、庶民の生活の実情はそれほど楽になっていない。PBS (Public Broadcasting Service 米国公共放送サービス)記事によると、リーマンショック以来、40%のアメリカ人が失職を経験し、特に白人男性の労働者階級がもっとも痛手を受けた。世帯数でみると1億2600万人が一家の大黒柱の失職を経験している。世帯主(一家のお父さん)が失職したために、お母さんがパートに出る、あるいはお父さんも再就職するが賃金は以前よりも低く、全体として生活は忙しく苦しくなっている。あるいは再就職先が決まらず、失業手当をもらいながらバイトをするという人も多い。雇用改善が進まず、所得格差が拡大するリセッションを「マンセッション」とも称している。
(PBS記事については、以下をご参照下さい。↓ )
http://www.pbs.org/newshour/bb/shields-brooks-iraq-reluctance-nixons-legacy/
総じて、オバマ政権の外交の失敗、イラクでの中途半端な軍事介入への批判、国民が豊かさを実感できない中途半端な景気回復への苛立など、米国国内がぎくしゃくし、地政学リスクへの対応が遅れそうだ。
“Barack Obama at Cairo University cropped” by The Official White House Photostream – Flickr. Licensed under Public domain via ウィキメディア・コモンズ – http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Barack_Obama_at_Cairo_University_cropped.jpg#mediaviewer/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Barack_Obama_at_Cairo_University_cropped.jpg
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