グローバルストリームニュース
国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

先行株グループのピークアウトに見る今世紀に入って3度目のバブル崩壊の予兆 山広恒夫氏

 

山広恒夫氏は、FRBウォッチャーとして有名はブルームバーグのワシントン支局記者です。今回はFRBウォッチの現場から、量的緩和の「出口なし」と語ります。

 

大井: 市場では米連邦公開市場委員会(FOMC)による初回利上げのタイミングが注目されています。市場金利による引き締めは既に始まっているのでしょうか。いわゆる「QE(量的緩和)バブル」が崩壊に向けて動き出すということでしょうか。

 

山広: バブルは既に崩壊に向けて動き出しています。じつは、ブルームバーグのレポートでもFOMC副議長のダドリー・ニューヨーク連銀総裁が、市場参加者がFOMCメンバーらの予測を過信していると注意を喚起したことに触れました。

この同総裁の発言は、過信の源泉が実は金融当局者の方にあることを示しているのです。米金融当局は市場の期待に働き掛けるという市場誘導策で物価安定も最大限の雇用確保も実現できると思い込んでいるようですが、市場は当局より一歩も二歩も先に動きます。

 

大井: FRBは債券購入を終了した後も、事実上のゼロ金利政策を「相当な期間」継続すると言っています。

 

山広: じっさいは、市場金利は昨年半ばに上昇し、住宅バブルは崩壊過程を鮮明にし、株式市場でも先行株はピークアウトしています。結果的に、市場が金融当局の過信を突いたといえます。市場では行き過ぎに対して自浄作用が働きます。

しかし、この自浄作用は臨界点に達すると自壊作用に転換します。このときになって初めて、一般にバブル崩壊として認識されることになります。

 

大井: FRBはどうすべきでしょうか?

 

山広: バブルの渦中にいるFOMCメンバーや多くの市場参加者にはなかなか本質が見えていません。この市場の自浄作用をうまく利用すれば、経済の構造改革を軌道に乗せることもできるかもしれません。

しかし、米金融当局は大規模金融緩和を6年も継続し、前回のバブル崩壊に伴う市場の自浄作用を封じ込めた上で、再びバブルを促進してきたのです。これを主導してきたのはバーナンキFRB議長(当時)でした。

再バブル化は、2008年9月のリーマン・ショック後に実行された事実上のゼロ金利政策と大規模資産購入による異次元緩和が原動力になりました。そして今回、バブル崩壊への道を歩み始めるきっかけを作ったのも同議長なのです。

2013年5月22日、バーナンキ議長は上下両院経済合同委員会の公聴会で、量的緩和(QE)に批判的な共和党のケビン・ブレイディー議員の質問に答える形で、「年内にQEと呼ばれる債券購入の縮小(テーパリング)を始め、14年半ばころに終了する」という道筋を示しました。

 

大井: 昨年5月22日のバーナンキ議長の「テーパリング発言」は国際金融市場に大きなインパクトがありましたね。この発言をきっかけに市場金利上昇に火が付き、2013年の10年物米国債利回りは5月2日の1.6255%を底に上昇に転じていたのが、バーナンキ議長発言が伝えられた同月22日には2.0395%と、2%台に上昇しました。

この市場金利上昇で、長期金利に連動する住宅ローン金利が引き上げられ、まず住宅市場が変調をきたす。米住宅市場の90%強を占める中古住宅販売は13年7月に前年同月比17%増加し、2000年代前半の住宅バブル並みの伸びでピークを付けた後、徐々に伸びを縮めて同年11月には2.6%の減少に転じました。

その後、10カ月連続マイナスを記録。これで、米経済の重要な柱の一つである住宅市場は再びバブル崩壊の憂き目に遭ったわけです。

 

山広: 今回の住宅バブルはオバマ政権の2度にわたる住宅減税とバーナンキFRB元議長によるQEによって引き起こされ、長期金利の上昇により、今回のバブルの主役である米国株式バブルの崩壊が既に始まっています。

S&P500種株価指数は9月18日に最高値を更新していますが、業種別にみると、先行してきたアマゾンなどのインターネット小売業は3月5日に最高値を更新し、ここでピークアウトした可能性が高い。

10年物米国債利回りは昨年12月31日に3.0282%でピークを付けて、この市場金利上昇の圧力を受けて、その2カ月後にインターネット関連株など先行株式グループが最高値をつけました。先行株グループとほぼ同時に小型株を中心とするラッセル2000もピークアウト。そろそろダウ工業株30種平均やS&P500種など主要指数もピークアウトに向かう可能性が高いと思います。

<チャート>

・米国債利回りと株価の相関チャート

sg2014100161642

・ダウ平均・ラッセル2000とインターネット小売り株の相関チャート

sg2014100161813

 

(出所 ブルームバーグ)

 

山広: バーナンキ前議長は08年に頂点に達した前回のバブル崩壊に慌てて、未曾有の資金注入で市場の自浄作用を封じ込めてしまいました。その後も前回バブルのウミをそのままにしたため、今回のバブルではこうした名残がさらに発酵しています。

そして、新たな要素と結びついて、派手な資産価格上昇の水面下で異形のバブルへと膨張してきたといえます。その全容は、いずれ訪れるバブル崩壊によって明らかになると思います。

次回のバブル崩壊は今世紀に入って3度目となり、安易な金融政策頼みは逆効果になるという学習効果が生まれるはずです。バブル崩壊は経済に衝撃を与えますが、それは同時に、市場が発揮する力強い自浄作用でもあるのです。その点に気付けば、新しい時代へとつながる構造改革への道が開かれるはずです。

 

大井: FRBは「市場の自浄作用力を消し去らない」舵取りが必要ですね.いつも貴重なご意見・情報を有り難うございます。

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