原油下落の行方 金融危機への導火線となるか?
新興国通貨安が加速
原油下落で国際金融市場全体が揺れ動いている。貿易だけをみれば、産油国にとっては国家の収入減となり財政悪化が懸念される一方、輸入国にとっては安い原材料価格は歓迎すべきであろう。だが、問題はそれほど単純ではない。
代表的な産油国は、サウジ、ロシア、UAE、クウェート、イラク、ナイジェリア、カタール、イラン、アンゴラ、ベネズエラ、ノルウェー、アルジェリア、カザフスタン、リビア。産油国の通貨は対ドルで下落している。特にロシアルーブルの下落が止まらない。
原油を輸入するのは、主に、ユーロ諸国(特にドイツ)、米国、中国、日本、インド、韓国、台湾、トルコ、インドネシアである。
原油下落に加えて米国でのゼロ金利解除がドル高を誘発し、新興国からの資本流出が起こっている。新興国通貨からドルへの動きが加速している。
ロシアは戦争を続けられるのか
FT紙によると、今年の2月クリミア攻め前にプーチンはロシア中央銀行に外貨準備高がどのくらいあるのかを確認した。原油高が続けば政府系ファンド(SWF)も潤い、強気で戦争を続行するはずだった。ところが、原油下落とルーブルの急落。
1998年のロシア危機に際してはルーブルが70%下げた。このところ50%ほど下げ、ついにロシア中央銀行は700億ドルの市場介入を実施し、ルーブルの安定を図った。
現時点で、2015年ロシアでは5000億ルーブルの予算不足が試算される。足りない分はお金を刷るのでインフレが加速するだろう。外貨準備高4160億ドルの40%を占めるSWF。市場介入のたびに減らされたのでは国庫が保たない。
プーチンは「2年間は経済的に困難な状況」とTVで語った。が、政策金利が17%よりさらに跳ね上がり、欧米の経済制裁による物資の不足、狂乱物価、インフレ、銀行から現金が引き出せないような事態となったら、国家は破たんしてしまう。金融的に破たんしたら、ロシア国民は経済的な辛苦にその後5年も10年も耐えて行かなくてはならないだろう。ちょうどソ連崩壊後の苦難の時代のように。
金融経済を自分の都合の良いように戦争や政治の道具に利用することは「国家理性」に反するし、プーチンにはそのバチが当たると思う。
デリバティブの恐怖
2008年リーマンショックのときに、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)取引でAIGがひん死の重傷を負った。今回の原油下落が金融危機を誘発する可能性もCDSやデリバティブに潜んでいるようだ。
1998年ロシア危機はロシア国債デフォルトが引き金となった。もしロシアが再度デフォルトを起こせば欧州の銀行団、CDSのカウンターパーティにも損失が及ぶ。また、ジャンク債発行で負債がふくれあがったエネルギー企業がデフォルトを起こす場合、債券市場にばらまかれた仕組債(structured notes)などCDSが複雑に絡んだ金融商品全体にリスクが拡大するだろう。
いったんマーケットに危機が認識されると、流動性が高く、かつリスクの高い証券(株式やジャンク債)が売られ、米国債など安全資産への「質への逃避」が起こる。この現象は1998年、2008年に繰り返された。
各国の金融監督当局は、当然、こうしたシステミックリスクへ対応し、危機への準備を怠らない。しかし、リスクの火種はどこにでも存在する。あたかもテロのリスクのように。
米国とキューバ
キューバとの国交回復へ向かう米国。チャベスなきベネズエラは原油下落でデフォルト間近。もはや北南に伸びるアメリカ大陸で、米国に逆らう国家はない。NAFTAの延長戦で、アメリカ大陸は米ドルが支配する文字通り「米国の裏庭」、巨大なマーケットとなるだろう。
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