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国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

インフレとデフレ、そして、戦後70年

日銀の超緩和策のおかげで「けっこう危うい先まで銀行の融資が伸びている、そういうお達しがあるみたいだ」と、先日、中小企業の顧客を多く持つ会計士さんが話していた。
たしかに、出口の光が見えるまで日銀はインフレを起こそうと必死だ。しかし、10年国債の金利は0.31% とほぼゼロ。現実はデフレ環境で、借金が膨らんでいく。そのため、青息吐息のゾンビ企業に貸し付けては銀行にとって回収の見込みのない「潜在的不良資産」 が益々増えることになる。日銀が出口戦略を描けず、また出口の後のビジョンもないまま、とにかくインフレ2%を目指して追加緩和をすればするほど、国も企 業も借金地獄に陥って行くように思える。

また、国の借金を日銀に摺り替え、日銀がお金を刷りまくっても、株価対策が国の政策であるかぎり、「国策に売り無し」と、株式市場に大きな下げは来ない。 だが、投資家は、いつまでも上昇基調が続くわけではないと、リスクを感じている。おそるおそる薄氷を踏むようなスリリングな相場環境は、年明け数ヶ月は続 く可能性がある。FRBがゼロ金利解除のタイミングはすぐには早まらないだろうと発言しているから、運良くば、日本の市場も2015年前半はデコボコしな がらも上昇を続けるかもしれない。しかも、来年9月をメドに日本郵政・ゆうちょ銀行・かんぽ生命の上場が予定されている。GPIFも日本株式のアロケー ションを増やすということなので、まさに「国策」として株式を買い支え、株式相場は浮上するはずだ。そして、上がった分リスクもまた膨れる。

 

12月1日に消費税増税延期を受けて、ムーディーズが日本の政府債格付けをAa3 からA1に1ノッチ(段階)格下げした。その理由は、財政赤字を「支払う意思が弱い」とみなされたためだ。次に、借金地獄に歯止めがかからないと見なされた場合、日本には「支払う能力がない」と判断され、国の格付けが一気に2ノッチ引き下げられる可能性が高いと、長年ムーディーズで信用格付けを行って来たM氏は、警告している。

2015年後半、7月辺りから、米国の金利上昇、そして日本の金融緩和の出口戦略が検討され始めれば、さらに、そのタイミングで日本国債が格下げされ、急激な金利上昇のリスクに見舞われるリスクがある。そのときは、銀行も国も金利負担に耐えられず、保有する国債価格は急落し、潜在的不良債権は現実の不良債権として銀行に重くのしかかる。銀行の貸出能力は大きく低下し、お金が回らなくなる。当然、株式も大きく下落するだろう。アベノミクス終焉の姿である。

そうならないためには何をすべきか。答えはアダム・スミスの「国富論 Natural course of things(農業→製造業→国内市場の形成→外国貿易)」にある。民富の形成には、農業の工業化、国内産業構造の変革が必須である。国内の産業基盤が脆弱であれば、TPPで日本にやってくる「外敵」との競争を戦い抜くことができないだろう。もはや岩盤規制を打ち壊すとかそういうレベルの話ではない。

 2015年は戦後70年にあたる。今まで70年続いた「戦後レジーム」は終わり、新しい国体モードに切り替わる時だ。1945年「戦後レジーム」の出発点に戻るようなものだ。当時は、米国占 領下、農地解放、民主教育、男女平等などが日本にもたらされ、憲法制定で日本の新しい国体が作られた。これから数年感、その歴史的イベントと同じくらい大 きな変化が来る。そして、来年以降の「戦後レジームの終焉」後の独立国家として日本の国体をどうすべきか。そのベクトルの向きを国民全体で考え、合意する 必要があると思う。

 

 経済・金融面の観点から見ると、日銀が出口戦略、その後の処理とビジョンを持たずに超緩和策を進めるやり方は、かつての大本営が合理的な国家目標と戦略 なしに戦争に突入した無茶さ加減と類似している。無条件降伏後の戦後処理と同じような事態(狂乱インフレ、平価切り下げ、ドルへの従属など)が繰り返さ れ、国民経済が破たんに陥らないことを祈る。

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