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国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

戦後70年、地殻変動に揺れる国際金融市場

昨年、中国主導でアジアインフラ投資銀行(AIIB)が設立された。AIIBは、アジアでの電力など資源エネルギー、通信などのインフラ事業を促進するための基金を提供する。

第二次大戦後に米国主導で設立された世界銀行やアジア開発銀行(ADB)に対抗する機関とみられている。当然、米国はAIIBを警戒している。ADBの主導権を握る日本もまた、AIIBの動きを慎重に見守っている。

 

ところが、先週AIIBに英国が参加を表明し、サプライズとなったのに加えて、17日付FT紙は、フランス、ドイツ、イタリアが参加に合意したと報じた。

中国の発表によると、アジアと中東を中心にすでに26カ国がAIIBへの参加を表明している。先進7カ国(G7)内部でAIIB参加をめぐり対立が見られるなかで、特に英米の対立を、多くの金融関係者は通貨体制の大きな変動の予兆と見ている。

 

第二次大戦後、米国は戦火で焼け野原となった欧州や日本の復興のために多額の資金を投入した。

1944年7月にブレトンウッズ会議において、国際通貨基金(IMF)とともに国際復興開発銀行(現在の世界銀行)の設立が決定された。

また、マーシャル・プランによって欧州の戦後復興が進んだ。日本は世界銀行の主要な貸出先となり、東海道新幹線などのインフラ整備を進め、奇跡の高度成長を実現した。一方で、大戦終結と同時に始まった冷戦によって、ソ連や中国など社会主義諸国に対して、世界銀行の関与は薄かった。

 

中国はAIIBを通して、ロシアを含む旧社会主義圏や新興国へのイニシャティブを握ろうとしている。

将来大きな資金循環が見込まれるAIIBの活動において、どの通貨の需要が伸びるのかが、世界の中央銀行の関心事であろう。例えば、第二次大戦後の復興では米ドルが世界を潤し、基軸通貨の地位を揺るぎないものにした。

 

AIIG参加をめぐるG7内の対立は、通貨市場に複雑な影を落としている。各通貨のウラ側にはそれぞれの通貨価値を裏書きする政治権力構造が存在する。

このゲーム・プランのルールを変えるのは容易ではない。ブレトンウッズ体制後、1971年のニクソン・ショック、1985年のプラザ合意、1999年のユーロ圏成立は、世界の通貨体制が大きく変わっていくプロセスを示している。

 

そもそも通貨を発行できるのは一国の中央銀行であり、その国の財政の健全性や成長性に応じて通貨の信用が担保される。

一国の通貨の価値は、その国の力(政治・経済・外交などの総力をあげて作られる価値)によって信用創造される。ユーロに関しては欧州中央銀行(ECB)が通貨発行権を持つが、その加盟国の信用力はバラバラである。信用力の高いドイツと低いギリシャの対立は収まらないだろう。

また、英国中央銀行(イングランド銀行)はイングランドとウェールズに対して英ポンド発行権を持つ。

スコットランドとアイルランドに関しては、通貨発行権はその地域の民間銀行が持ち、発行額とほぼ同額の資金をイングランド銀行に預け入れる義務がある。

米国に関しては、米ドル発行権を持つFRBは一国の中央銀行であるが、イングランド銀行同様、その株主は政府ではなく民間銀行である。徴税権を持つ政府が国債を発行し、同時に通貨発行の役割を担う中央銀行もまた政府のものという日本の常識は、国際金融市場の常識と一致しないのである。

 

戦後70年、ウクライナやISなど戦争の火種が多く、地政学リスクも高まっている。この地殻変動は国際金融市場にも及ぼうとしているのかもしれない。

日本に関して言えば、短期的には、株式相場は3月末日までは上昇するだろう。年金運用者などにとっては、3月末日の株価が年間の運用実績を記す重要な数字であるからだ。4月以降は、日本の外交姿勢、戦後70年をめぐる歴史認識の問題へと焦点がシフトしそうだ。

 

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