日米の雇用のあり方、そして賃金格差について
米国の景気は良いのか悪いのか? 先週金曜、3月の雇用統計が発表され、新規雇用者数は12万6千人と市場予想を大幅に下回った。景気は弱含みという懸念から、FRBの利上げ時期が秋口以降にずれこむという予想が出てきている。その一方で、失業率は5.5%と前月と変わらず、今後の景気見通しは良好で、利上げ時期もずれ込まないといった相反する見方もある。
雇用統計では失業中でも職探しをあきらめた約2百万人はカウントされていない。フィスカル・タイムズ紙のマイク・キャシディ氏は、過去3ヶ月にわたり25歳から54歳の人口に対して実際に働いている人口の比率(EP率)を各州で調査した。その結果、全米平均が77.2%とリーマンショック前の2007年の 79.9%に近づいている。しかし、若年層、マイノリティ、長期失業者は雇用回復の波から取り残されている。
また、州ごとにみると、EP率トップはノースダコタ州で7割近くがなんらかの職に就いて働いている。ワーストはウェストバージニア州で5割しか働いていない。また、2007年から現在までの年間EP率の伸びをみると、テキサス州が全米トップで、人口増加のペースも全米平均を上回っている。
The Fiscal Times紙 2015年4月5日付記事
“The Numbers that Matter Most from the Jobs Report”, by Mike Cassidy
http://www.thefiscaltimes.com/Columns/2015/04/05/Numbers-Matter-Most-Jobs-Report
さて、EP率の高さと労働賃金の高さとは必ずしも一致していない。キャシディ氏によると、昨年末に全米では870万人の失業者に対して500万件の求人件数があった。一見、職をえり好みしなければなんとか仕事にありつけそうな環境だ。しかし、職種別に見ると、建設、採鉱・鉱業(マイニング)、製造業、運輸業では、失業者数に対して求人件数が数分の一しかないのに比べて、専門性の高いビジネス関連(弁護士、会計士など)、IT、金融、医療、教育分野においては、求人件数が失業者数とほぼ同じである。こうした需要が高い専門職では、当然、賃金も高い。
2007年から2014年までに最も高い賃金上昇が見られた職種の上位は、マイニング、IT、金融が占める。マイニング業界の賃金上昇はシェール・ブームという特殊事情によるものとも考えられる。さらに、テキサス州が豊かになった理由は、上位3位の職種が優れた人材を全米から吸収したことによる。総体的に、米国では専門教育を受けて高い賃金を稼げる人とそうでない人との所得格差がますます拡大してゆくようだ。
The Fiscal Times紙 2015年2月5日記事
“5 Million Job Openings, So Why Can’t You Get Hired?”
http://www.thefiscaltimes.com/2015/02/05/5-Million-Job-Openings-So-Why-Can-t-You-Get-Hired#sthash.TkX4cyUq.dpuf
日本では、春闘でベアアップが話題になった。大企業が潤い賃金が上がれば、コップの水が下へ落ちて行くように、やがて中小企業、そして零細企業が潤い、国民の底辺まで利益が循環するはずだという考え方が政府にはあるようだ。しかし、こうしたシステムは日本でも既に崩れかけている。かつての高度成長の栄光を経験した人たちは、その成功体験から抜け出せないのだろうか?
グローバルな競争が厳しい時代、専門性の高い日本の独自技術やサービスは海外で高い評価を受けている。例えば、東大ベンチャーで話題になった人型ロボットを開発したシャフト社は、グーグルに買収された。日本のベンチャーキャピタルや官民ファンドがシャフトの独自技術を評価するだけの目利き力がなかったというわけだ。傾斜生産方式や海外から技術を取り入れて国内で製造加工し、輸出で稼いでいた時代から、発想の転換が出来ないのだろうか?
世界基準で「稼ぐ力」のある中小企業や技術力をもった日本の若者の頭脳が流出していくことこそが国益にとって問題となるだろう。
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