金融市場は、ギリシャ危機と中国株式市場のバブル破綻への懸念で揺れ動いている。CNBCキャスターのロン・インサナ氏は、ギリシャがユーロから離脱しドラクマに戻れば、第一次大戦後のドイツのようなハイパーインフレと大不況に見舞われるとコメントしている。さらに、中国株式バブルは過去3週間で30%近く下落し、時価総額3兆ドルの損失はギリシャのGDPの10倍にあたり、ちょうど1989年の日本のバブル崩壊の時のようだと評している。
歴史を振り返ると、ワイマール共和国の経済的破綻の後にナチス台頭という政治的破局があり、世界は1929年の大恐慌と第二次世界大戦の破局の道へと進んだ。日本のバブル後には失われた20年が続いた。歴史は繰り返すだろうか。ユーロ圏では各国代表者が集まり会議が続いているが、バルファキス財務省が辞任し、チプラス首相には具体的で解決に向けた策はなく、「会議は踊る」状況が続き、ユーロ・ソブリン債市場は不安定化するだろう。
また、中国政府は、上海・深圳株式市場下支え政策に加え、過去6年にわたりインフラ投資に6兆ドルを費やして来たが、さらにバブル破綻を和らげようとAIIBによるさらに大型のインフラ投資へとシフトしようとしている。
ギリシャに関しては、20日にECBへの4800億ユーロの返済期日が迫っている。目下、デフォルト後の破綻処理をどうするか、テクニカルな議論が進行中である。ギリシャがデフォルトしてもユーロ圏内に留まるためには国際金融の銀行団との厳しい交渉を経て破綻処理をきちんとしなければならない。
過去にもロシアやアルゼンチンのソブリン債のデフォルト(債務不履行)があり、銀行団(債権者)は債務整理を行ってきた経験はある。しかしながら、ギリシャは過去5年にわたり債務を累積し、その額は借入や国債、ECBからの支援などを含む4900 億ユーロ(約66兆3000億円)にのぼるといわれ、デフォルトの損失をユーロ圏諸国の公的機関が負担することになる。彼らは融資保証の形で3350億ユーロ程度の債務を負っている。この巨額の損失は、ユーロ圏にとって2008年のリーマンショックに匹敵すると、投資情報会社ハイ・フリークエンシー・エコノミクスのチーフエコノミストのカール・ワインバーグ氏はウォールストリート紙(7月6日付)に述べている。
http://jp.wsj.com/articles/SB10608521192908353573604581091230181727122?mg=id-wsj
同氏によると、ギリシャの最大の債権者であるESMは1450億ユーロを融資したが、貸倒引当金がない。今後、ESMの保証力に問題が及び、各国政府はESM向け融資保証の債務を負うことになる。このように、ギリシャ危機はユーロ・ソブリン債から債券市場へと負の連鎖反応を引き起こす。債券市場のリスクが高まり、金利変動リスクが世界の信用市場に波及しそうだ。具体的には、債券市場の乱高下で、ヘッジファンドやCTAのトレーダーはヘアカット、CDS(クレジットデフォルト・スワップ)、オプション価格など多くのリスク要因とタックルしなければならず、不慣れなトレーダーのミスが大きな穴を開け、マーケットをパニックに陥れる可能性がある。
米国では破産法が透明な破産処理プロセスやルールを明確にしているが、ユーロ圏での破綻処理ではESMや各国政府の利益調整には時間がかかりそうだ。その間、ESMの資金調達は難航し、信用縮小は中国市場にも波及するだろう。すでに、中国需要の減退から、原油・コモディティ市場は下げている。
ところで、ギリシャと中国の間には大きなユーラシア大陸が横たわる。7月8日ニュースでは、G8からはじき出されたロシアは、BRICs首脳会議の開催国として、上海協力機構が欧州連合に代わるのだと、敵対心を露にしている。プーチン大統領はチプラス大統領に電話で「ギリシャ国民を支持する」と伝えている。ロシアはギリシャを経由してパイプラインを地中海へ通したい。中国もまた、「一帯一路」構想でギリシャの港湾を買収し、欧州への道を確保したい。
目下、ユーラシアを構成するインドとパキスタン、イランの動向が注目されている。ロシアのニュースでは、インドとパキスタンが上海協力機構への加盟に動いているし、イランも加盟を申請しているが、米国との核協議がネックになっているという。ギリシャは地政学的上の位置づけから、上海協力機構からの協力を得られるかもしれない。それがユーロ圏離脱のきっかけになるのかどうか。
日本市場に関しては、原油・コモディティ価格下落は景気には追い風だが、日銀の2%物価上昇目標からはさらに遠ざかるである。円高から株式市場も下落傾向。個人投資家が信用取引で儲かるようなマーケット環境ではないので、要注意だ。
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