年末までに高まる市場リスク
8月に中国経済の株式市場の下落や原油・コモディティ下落を受けて、国際金融市場のボラティリティが高まるにつれ、FRBの利上げのタイミングが注目されて来た。実際8月後半のローラーコースターのような相場で既に利上げはかなり織り込まれたと筆者は見ている。
日本株に関しては、日本株売買の7割のシェアを持つ外国人投資家の売り越しが8月の中国株安をきっかけに2兆5350億円(現物と先物)となった。千円や500円といった暴騰・暴落の繰り返しは、とても個人投資家の買いだて・売りだてでは起こりえない。巨大な力が売り越しては少し相場が上昇したところで買い戻し、また売り浴びせるというゲームをしかけ、すでに心理戦・神経戦の展開となっている。
こうした相場の荒い値動きは、グローバル投資マネーの群衆行動にも起因する。巨額のマネーを運用するマネジャーたちは、投資の効率化を図るために金融工学を駆使したクウォンツ運用を実践している。短期の投資判断や千分の一秒単位で売買を行うシステム等が様々な投資戦略に用いられている。しかし、高度な運用技術を支えるアルゴリズムは、中国政府の介入やイエレンFRB議長の意味深長な発言に対して微妙な投資判断を下すことは不可能である。
MITのアンドリュー・ロー教授は、将来、人工知能がある程度のリスク予想を可能にすると語っているが、すべての投資をロボットが自動的に判断出来るにようになるとは思われない。将来のことは誰にも分からない、優れた人工知能でも予知能力がある訳ではない。
参考記事 ブルームバーグ(9月9日)
クウォンツ運用で大量のマネーがリスクオンからリスクオフへ巻き戻す動きがこのところのボラティリティを高めているのは間違いない。先週1週間の投資マネーの動きをみても、米国株式から米国債へと安全資産へ向かっている。しかし、その一方で、ブラジルやインド、オーストラリアなど割安感の出て来た株式市場への流入もみられる。めざとい投資家は、少しでも利益幅をとれる狩場で短期勝負に出るのだが、こうした行動もまたボラティリティを高めることになる。
さて、筆者は、9月に0.25%の利上げを予想しているが、ブルームバーグの山広恒夫記者は「米国経済の現状を直視すれば9月の利上げは論外」という意見もある。いずれにしても、年内実施のFRBの利上げがきっかけとなってマーケットが崩れるとは見ていない。世界株安はじつは中国や中東など政治的な判断や地政学的要因から不測とされる事態によって引き起こされる可能性のほうが高い。これはアルゴリズムが対応するレベルではなく、リスク判断はやはり人智を尽すマネジャーの腕しだいだと考えている。
日本市場はシルバーウィーク連休後に要注意である。11月4日のゆうちょ・かんぽの上場まで、政府は株式市場を冷やしたくないだろう。そうした心理を読み込まれたうえで、年末にかけてボラティリティの上昇が見込まれる。
台風18号の影響で、常総市では防波堤の一部が崩れ、大きな被害を及ぼした。金融市場においても津波のような大きな流れが押し寄せた時に、リスクに脆弱な箇所から堤防が決潰し、なし崩しに被害が拡大する。マーケットに対して危機対応プランと日頃のコミュニケーションが欠かせない。
そして、リスクに立ち向かうには、強力なリーダーシップが必要である。オーナー企業の経営者であれば自分の育てた会社を守るために必死でリスクと戦うだろう。しかし、これが、魂のないサラリーマン社長だったら、あるいは責任感のない官僚や自治体の長、どうでもいい議員だったら、思い切った行動をとれないので、結果として従業員や市民がその被害を被ることになる。それが分かっているならば、お上に頼らずに個人個人がどのように自らを守るかを考えるべきだろう。
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