短期的な相場調整、その後にやってくるE革命
10月にはS&P500指数が前月比で8.3%上昇し、市場は8月半ば以降の下げから回復したように見える。マーケット参加者の中には、中国リスクやグローバルなリセッションが遠のいたと、安堵する人たちもいる。さらに、中国の製造業指数の落ち込みも底を打ち、中国国内需要や資源・エネルギー関連需要にも強気の見方も出て来ている。
相場回復は短期的、クリスマス頃から要注意
6日(金)発表の雇用統計では、非農業部門の雇用社数が27万1000人と、急増し、予想を大きく上回った。また、失業率も5.0%(ほぼ完全雇用と見なされる水準)まで改善した。来週以降はクリスマス商戦が本格化し、今月26日の感謝祭に向けて個人消費も盛り上がりを見せるだろう。米国株の堅調な展開が続くかもしれない。
しかし、そうした明るさが12月のFOMCの後まで続くかどうか。筆者は、12月半ばにFRBが0.25%の利上げを実施すると予想している。そして、この利上げが、リーマンショック以降量的緩和が相場を浮上させて来た「中央銀行相場」に決別を告げるものと考える。クリスマス前後から年末まで相場は短期的に不透明で、債券市場にはリスクを含む。
中長期の見通し E革命が進行中
一方、長期的な経済の動向を見ると、この先はグローバルな規模で産業構造の大きな変動を経験することになるだろう。ちょうど20年前、1995年に「ウィンドウズ95」が発売され、世界中にIT革命の風が吹き始めたが、筆者は第2のIT革命のような大きな変化の波がやってくると考えている。
IT革命は、情報のシームレス化をもたらし、通信費や情報サービスのコストを下げて来た。その背景には、「18〜24ヶ月毎にコンピュータの能力は倍増し、コストは半減する」という「ムーアの法則」がある。今やインターネットで世界中の人々が自由に交信し、SNSのようなコミュニティを作っているが、ある一定の規模にまでネット社会が広まるまでは、IT革命も始動期の変化の速度はゆっくりだった。しかし、クリティカルマスの限界点を超えると、技術革新の成果は爆発的に拡大したのだ。
同様の事態が資源エネルギーの領域ですでに始まっている。太陽光や風力発電によるクリーン・エネルギーの限界点が近づいている。スタンフォード大学のビベック・ワドハ研究員によると、自然再生エネルギー、特に太陽光発電は「設置が毎年倍増し、太陽電池モデュール費用は2割ずつ減少する」。そして、政府の補助金がなくても2022年までには太陽光発電コストは現在の半分となり、2035年までにはエネルギーコストはほぼゼロに近づくと試算される。
今後10、20年の長期トレンドを鑑みるに、ロボットや人工知能の開発、3Dプリンターの発展により、オペレーショナルな労働コストもまた、エネルギーコストと同期して限界的にゼロに近づいて行く。IT革命と同様、E革命もまた最初の変化は徐々に進行し、やがて加速度的に拡大していく。その過程において、世界のものづくりは劇的な変化をとげると予想される。
E革命で中国製造業は衰退する
21世紀の最初の10年で、中国は「世界の工場」に躍り出た。しかし、これからの10年で、中国に進出した先進国は、ブーメランのように自国に製造拠点を戻すことになる。現に、米国は既に拠点を自国に戻しつつある。次世代の新しいものづくりにおいて、テクノロジーが発達すればするほど、消費者にとっての価値=製品の魅力を創り続ける努力が必要となる。そうしたイノベーションに牽引されて進化する経済は、民主主義的な政治・文化のインフラがないと持続できない。
その意味において、中国での大量生産型のものづくり需要は縮小して行くだろう。中国の人口減少に伴う労働コストの上昇だけがその要因ではない。イノベーションに対応できる労働者の質の向上や労働生産性のキャッチアップを可能にするためには、基本的に自由な発想や起業家を受け入れる社会的インフラが欠かせない。
そのインフラを支えるのが、イノベーションの成果を受け入れる民主的な教育を受けた幅広い中間的生産者層の存在である。その意味で、中国は一時、世界の商品を爆買する「消費大国」となるかもしれないが、格差社会の弊害を防ぐことなしに、成熟した消費社会を基盤に、安定的な低成長型の国民経済を確保することは困難であろう。
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