2016-17年の見通し2
中長期でみると、2016-17年は移行期(Transition)にあたる。ミレニアム世代が「新ニューエコノミー」を牽引するといった明るい兆しが見えるものの、そこに至るまでの移行期にあたる2016-17年には、金融市場は暗いトンネルを抜けて行かなければならない。
人口動態から米国を見る限り、1980年代前半から2000年代前半に生まれたミレニアム世代にあたる8千3百万人が労働市場の約4割を占める。彼らは生まれた時から世界とつながっている「デジタル・ネイティブ」である。高学歴の彼らのライフスタイルが個人消費のトレンドを決定していくだろう。その意味で、米国経済は底堅い。これは明るい材料である。
一方で、金融市場では2016年に膨らんだ債務の大量償還が迫っている。投資マネーは技術革新に向かうものの、その成果を喜ぶ前に目の前の債務を片付けなければならない。特に、利上げに踏み切った米国の債務借換え(リファイナンス)が最大の焦点となるだろう。
新技術へ向かう投資マネー
グローバルな投資マネーはつねに新規の儲け先を目指して世界中の資本市場をかけめぐる。21世紀の最初の10年は新興市場にマネーが流入した。エコノミスト誌によれば、欧米企業は2兆ドルもの資金を中国とインドに投資した。さらに、2005年から13年にかけて、実物資産への投資が加熱し、コモディティ市場に6兆ドルがつぎ込まれた。当時は中国の経済成長や不動産ブームから、資源や土地開発への需要が見込まれていた。しかし、中国の不動産バブルは終わり、エネルギー関連、化学工業部門では今後の設備投資が20-50%減と予想されている。
昨年12月のFRB利上げは、これまで新興国や資源・コモディティへの投資に向かった資金が巻き返しに入る時を知らせた。マネーは先進国の新技術開発へ向かい、各企業のR&Dが活発化している。その成果は、今年から来年にかけて顕われてくる。オンリーワンの技術やノウハウを持つ日本のものづくり企業にとってもグローバル化の波に乗るチャンスである。
ミレニアム世代が牽引する「新ニューエコノミー」
かつてのドットコム・ブームの頃、IT革命とニューエコノミーが社会に変化をもたらした。次なるIT革命は、資源エネルギー、ヘルスケア、金融など幅広い分野に拡大しつつある。その担い手が、1980年代前半から2000年代前半に生まれたミレニアム世代である。
米国ではこの世代が8千3百万人と、労働市場の約4割を占める。彼らは生まれた時から世界とつながっている「デジタル・ネイティブ」である。その8割がフェイスブックを使いこなし、ネット、オーガニックな食事、フィットネスへの関心が高い。高学歴だが、その6割が会社で出世することに意義を感じていない。ベンチャー志向が強く、人助けをしたいという意欲が強い。
ミレニアム世代は、結婚がやや遅く、持ち家や車にあまり執着しないという傾向があるものの、今後5年で家庭を築き、マイホームやマイカーを取得するようになる。こうした人口動態からみて、米国では住宅需要や個人消費が落ち込むことはなく、持続的に堅調に推移すると予想されている。しかも、ミレニアム世代のライフスタイルは、ネット・ベースで世界中の同世代と同期している。
日本ではミレニアム世代が2674万人いる。同世代の彼らが自由な発想で、モノやアイデアをシェアし、事業を興し、産業構造を変え、これからの「新ニューエコノミー」を形作って行くだろう。
世界の金融市場はどうなる?
「新ニューエコノミー」の明るい兆しが見えるなか、そこに至るまでの移行期にあたる2016-17年には、金融市場は暗いトンネルを抜けて行かなければならない。
IMF年末(2015年12月30日付)のworking paperによれば、
http://www.imf.org/external/pubs/ft/wp/2015/wp15287.pdf
リーマンショック以降、米国FRB、英国中央銀行(BOE)、 日銀(BOJ)、欧州中央銀行(ECB)が実施してきた金融緩和策が超低金利を出現させ、世界の市場へ資金を溢出させた。この「溢出効果 Spillover effects」で、2009-13年に新興国の債券発行残高が急増した。世界の信用市場では、この四カ国の中央銀行によって膨れ上がった世界中の債務リスクが高まっている。
IMFは新興国市場の債務問題に言及しているが、先進国でも政策を間違えれば深刻化する。ブルームバーグ記事”Biggest Economies Face $7 Trillion Debt Refinancing Tab in 2016”によれば、利上げに踏み切った米国の債務借換え(リファイナンス)が最大の焦点となるだろう。
しかも、今年11月8日に米大統領選挙がある。その半年前ほどから現職オバマ大統領は新たな政策の方向性を打ち出すことは出来ないだろうから、その空白の隙を突いて不意打ちのような突発的な事由(紛争や金融危機など)が起こる可能性が高い。特に、8−11月は要注意である。
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