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国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

マイナス金利の行き着くところとは

 「風が吹けば桶屋が儲かる」ということわざがある。何か事が起こると、一見すると関係のないところでその事に起因する予想外の影響が出てくるという因果応報の不確実性をたとえている。マイナス金利についてはどうだろうか。

 前代未聞のマイナス金利を日銀が導入して以来、銀行に預金すると元金が減るので、市民生活のレベルでは、自宅で現金を保管する需要が増え、金庫が売れているという。そうなると、空き巣や泥棒が増え、治安が不安になるので、各人が防犯対策を強化することになりそうだ。

 日本に先駆けて、デンマーク、スウェーデン、スイスの中央銀行、そして、ECBではマイナス金利が導入されている。ECBの預金金利は昨年12月でマイナス0.3%である。国際決済銀行(BIS)は、各国中央銀行のマイナス金利導入の影響について報告書をまとめている(3月6日付)。
https://www.bis.org/publ/qtrpdf/r_qt1603e.html

 この金融政策の成果がどうなるかについて、じつは誰も明確な見通しを持っていない。先ほどの江戸の小話のようにその因果応報は不確実なのである。

 例えば、市中銀行と中央銀行(日銀)とのいわば卸し(ホールセール)レベルでみると、銀行は日銀に預けるとペナルティを払うことになるので、より収益を稼ぐ投資運用へ舵を切り替える必要に迫られ、長期債や高リスク債券への投資を増やしている。こうなると、長期運用資金を抱える生保や年金でも運用難となり、事業収益を圧迫することになる。一方、マネーマーケットではマイナス金利で取引量が減り、短期資金市場で流動性が逼迫しそうな状況が出て来そうだ。

 また、銀行が一般市民と関わる小売り(リテール)レベルでは、住宅ローン金利などに影響が出てきそうだ。マイナス金利で、金利が下がればローンを抱える個人にとってはありがたい。しかし、それがいつまで続くのか、急激な金利上昇に転じないかなど不透明感が払拭できるまでには時間がかかりそうだ。実際スイスでは資本流入を防ぐために自国通貨(スイスフラン)高に誘導し、マイナス金利を導入しても、住宅ローン金利は下がるどころか上昇している。

銀行の収益が圧迫され、つまるところ最も弱い立場の個人がそのしわ寄せを受けることになるのだろう。

 さらに、マイナス金利導入で決済システムや税制面での調整が必要になると見られている。おカネ(貨幣)を保有することでペナルティを払うのであれば、ビットコインのような仮想通貨を前提とした金融システムに移行する可能性を示唆する声もある。その場合、だれがその通貨の最終的な信用の裏付けをするのか。金融のもっとも本質的な原則が問われることになりそうだ。
 

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